aurea mediocritas

日々の雑感や個人的な備忘録

人類史と進化に関するノート

【宇宙の歴史まとめ】
宇宙の始まりは138億年前。太陽系が生まれたのは約50億年前。太陽系に地球が生まれたのは推定45.5億年前。生物が産まれたのはいまから約38億年前。「細胞」が生まれたのはいまから約33億年前。生物よりも「ウイルス」の方が先に出現したのか、それとも約38億年前に「生物」が誕生した後に、それを利用して増殖する「ウイルス」が出現したのかという点は、よく分かっていないが、おそらく「生物」が先だろうと言われる。ホモ・サピエンスが出てきたのは30万年前である。産業革命は、1760年から1840年なので、たかだか200年前くらいである。

【文明の歴史】
3万年前から「芸術」の証拠がある。農耕と牧畜の開始が1万年前である。5000年前に古代文明が起こった。

地質年代の区分まとめ】
地球には46億年の歴史がある。38億年前に初めての「生命」が地球上に現れたが、そこからはずっと単細胞で、小さくて見えないような生きものの時代が極めて長く、5億4000万年前にようやく化石に残るような大きさの生物が出てきた。現在は「顕生代」である。顕生代は、「化石に残るような生きものがたくさん出てきた時代」である。46億年前は「冥王代」で、その次が「太古代」で、その次が「原生代」で、その次が「顕生代」である。5億4000万年前から顕生代が始まって、「顕生代」の中身は「古生代」と「中生代」と「新生代」に分かれている。古生代で有名なのは古生代の最初、つまりカンブリア紀である。中生代は基本的に「恐竜の時代」だと覚えていたらよくて、新生代とは基本的に「哺乳類の時代」だと覚えておいたらよい。新生代は6600万年前に始まる。今から6600万年前に始まった新生代の中身は「古第3紀」と「新第3紀」と「第4紀」の3つに分けられる。今はこの「第4紀」である。この「第4紀」は258万年前に始まって現在まで続いている。今度はこの第4紀の中を見てると、「更新世(Pleistocene)」と「完新世(Holocene)」の2つに分けられている。「1万1700年前」に最終氷河期が終わって、今は暖かい「間氷期」にあたる。この「1万1700年前」から現在までが「完新世」である。完新世では、最終氷期が終わったので人間は農耕牧畜を始めたのである。つまり今は、顕生代の中の新生代の中の第4紀の中の完新世である。しかし2000年ごろから、この第4紀の中に「人新世(Anthropocene)」を認めるべきだということを、オランダの大気化学者パウル・クルッツェンと、アメリカの生態学者でユージーン・ストーマーなどが提唱している。クルッツェンはオゾンホールの研究で1995年にノーベル化学賞を取っている。シヴィツキーらの研究によると人新世の始まりは1950年以降であるという。


【出アフリカは3回あった】
原人の出アフリカ→旧人の出アフリカ→新人の出アフリカという3回の出アフリカがあったことになる。原人の代表はホモ・エレクトスである。旧人の代表はネアンデルタール人とシベリアのデニソワ洞窟から出たデニソワ人である。新人はホモ・サピエンスである。

 

【サフールランドとスンダランド】
最終氷期が終わったのは1万1700年前だが、その前は氷河期であった。氷河時代には海水面が低下していた。海の水が陸に上がって、それが氷河で凍っていた。したがって、海の水が少なくなるので、海面は最低でも80メートルは低下するということになる。だから、パプアニューギニア、オーストラリアの間にある、「アラフラ海」という非常に浅い海が全部つながっていた。それから、タスマニア島、これらが1つにつながって、専門的には「サフールランド」と呼ばれる陸地だったのだ。さらに氷河時代インドシナベトナムカンボジア、タイ、といった国々が今あるところと、マレー半島スマトラ島、ジャワ島、そしてボルネオ島が全部つながった「スンダランド」という、非常に巨大な半島があった。これを「スンダランド」と呼ぶこともある。ちなみに北海道と樺太も繋がって巨大な半島になっていた。津軽海峡はとても深いので陸地ではなかった。


【霊長類の歴史まとめ】
霊長類の共通祖先から、2000万年前にテナガザルが分かれた。1500万年前にオランウータンが分かれた。900万年前にゴリラが分かれた。600万年前にチンパンジーとヒトが分かれた。「ルーシー」が有名である。つまり600万年前までチンパンジーとヒトは同じ動物だったということである。チンパンジーの立場から見ると、ゴリラよりヒトのほうが一緒にいた期間が長いということになる。人から見たらチンパンジーとゴリラのほうが近そうだが、チンパンジーから見たらチンパンジーはゴリラから遠くにいるのである。250万年前にチンパンジーと分かれた後のホモ属がアフリカで進化した。「トゥルカナボーイ」が有名でこの頃の脳容量はだいたい900ccくらいであった。ただしこのときはまだホモ属というだけであって、ホモ・サピエンスとは限らない。200万年前にホモ・エレクトスがアフリカを出てユーラシア大陸に拡散した。これが「北京原人」とか「ジャワ原人」とか「ハイデルベルク原人」とか「ドマニシ原人」である。しかしこれらの原人は全て絶滅してしまった。「オルドワン石器」という用途が5種類くらいしかない石器を使っていたらしい。しかし、180万年前から始まってそこから「ムステリアン石器」が発明されるまで100万年間くらい使われていた石器を「アシュレアン石器」という。人類の脳は、この最後の200万年間で3倍に巨大化している。20万年前にアフリカでホモ・サピエンスが進化した。この頃の脳容量は1400ccであった。有名なのは「クロマニヨン人」である。10万年前から5万年前にホモ・サピエンスがアフリカを出てオーストラリアやアメリカ大陸を含む地球上の全てに拡散した。地球上の全ての国の民族は、20万年前には全員アフリカ人であったことになる。黒人も白人も金髪も茶髪も、20万年前にはみんなアフリカ人だったのである。ちなみに、有名な「ネアンデルタール人」や謎の「デニソワ人」などは、現生人類の祖先と少し交配していたとされている。これらは「旧人」と呼ばれ、我々「新人」とはDNAが異なり、新人よりも先にアフリカを出ていたのである。日本列島に新人ホモ・サピエンスの集団がやってきたのが3万8000年前(3万8000年前というのはかなり遅い。オーストラリアにはもっと早くに到達していたからである。ちなみにハワイが一番遅く到達されており、ハワイに到達した人々は「ラピタ人」と言われている。「グレートジャーニー」において、台湾は重要な土地である。なぜならハワイ、それからモアイのあるイースター島、それからマオリ族が行ったニュージーランド、フィジー、そしてマダガスカルに渡った人々は実は台湾を出発点としていたから)で、当時はまだ最終氷期が終わっていないので、今よりも80メートルくらい海面が下がっていたので、北海道は大陸までつながる半島になっていた。だから大陸から北海道までは歩いて来られるんが、その先には津軽海峡の海があって、本州とはつながっていない。それゆえこのルートは寒いし、楽ではない。これが北海道ルートである。朝鮮半島から来ると、対馬海峡は開けているので、海があってこの海を越えないといけない。朝鮮から対馬が見えて、対馬から九州が見えたのである。肉眼で見える程度の距離ではあれど、対馬から九州まで渡るのに海を越える必要があった。これが朝鮮半島対馬ルートである。それから、このときまだ台湾がユーラシア大陸の一部になっているので、台湾海峡はなかった。この台湾から与那国島まで来たというのが沖縄ルートである。ただしこのルートは黒潮の妨害もあるので、最古のルートではない。日本に来るために一番早く開通したルートが朝鮮半島対馬ルートであった。2万5000年前に「細石刃」という非常に特徴的な石器が現れるのだが、これは北海道ルートから来た人々の使っていた石器だろうと言われる。

 

【狩猟採集と農耕定住の違い】
狩猟採集生活には非常にバラエティに富む食事があり、カロリーは取りにくいが、バランスの取れた食事ができて、健康的である。つまり、狩猟採集生活は、新鮮で高品質で栄養が豊富な食生活だけれども、たくさんは採れないので、食べるものの種類だけがとても多くなるわけだ。しかし、カロリーとしては非常に少なく、むしろぎりぎりぐらいで、余裕はない。ある日、飢餓がきて、獲物が捕れなくなると、ばたばたと死ぬ。しかし、皆一応健康なのである。というのも、毎日10キロ以上は歩いているし、歩くだけではなく、走る、掘る、運ぶというような労働を毎日こなしている。これを我々は、600万年の霊長類の歴史のうち、599万年続けていたことになる。それに対して、農耕定住の生活は、貯蔵が可能になり、カロリーがたくさんとれるようになったが、少数の種類の食物に特化して依存することになるので、栄養が偏る。それゆえ、農耕定住生活が始まった直後のものとされている骨の状態は実はそれほど良くない。これをもって、人類はイネや小麦によって使役され、イネや小麦の増殖を助けるための奴隷となってしまったと考える論者(=ハラリなど)までいる。また、蓄積が可能になったことで、その蓄積された富の独占ということも同時に可能になり、「階級」と「不平等」が生まれたのである。また、強い者による税の収奪記録を管理し、誰が税を納めて誰がまだ納めていないのかを記帳するために「文字言語」も発明された。この「文字言語」は、家系を記録するのにも使えるので、一度生まれたヒエラルキー(=階級構造)を維持するためにも使えるものであった。都市も分業もこの頃からである。では、私たちの体や頭、感情などが、このような狩猟採集から農耕定住への変化にリアルタイムで追いついていて、この暮らし方を楽しいものと感じ、適応できているのかというと、そうとも限らない。進化的に言えば、599万年かけて発達させてきた能力に対して、最近1万年のライフスタイルがミスマッチであり、エラーが出やすいとさえ言える。ただし、農耕定住社会になってから、「自分で種を蒔いて自分で収穫する」という予測可能性やコントローラビリティが現れたという点で明らかに未来についての観念が問題になる時代に突入したとは言える。これまでは未来のことは考えても仕方がなかったわけだが、農耕定住社会は未来を常に意識することに価値があるのだ。計画を立てることで、未来の不安に追われつつ、現在をコントロールすることで未来の不安に対処できるようになったのである。

 

人口爆発まとめ】

1650年ぐらいには5億人だったといわれる世界人口。1850年には倍の10億人になり、1930年にはさらに倍の20億人になった。1950年には25億人。1975年には40億人。1987年には50億人。1999年に60億人。2000年には63億人。2011年には70億人になった。

 

【DNAの何がすごいのか】
生物のDNAはいわば4つの文字で書かれている。すなわち、アデニン、チミン、シトシン、グアニンの4つである。この4つからできるアミノ酸は20種類。ところが、この20種類のアミノ酸から出てくるタンパク質は、数百万から数千万にも及ぶ。つまり、単純な原理でありながら非常に複雑な効果を実現しているのである。


【三項関係の論理構造】
「共同注視」による三項関係の成立とは犬を見てワンワンと叫んだ赤ちゃんに対して、親が「うんうん。ワンワンだね。」と同意するということである。この親による同意とは「「『あなたがワンワンを見ているということを私が知っている』ということを、あなたが知っている」ということを、私は知っている」という構造をしている。例えば、赤ちゃんは、人の顔を見て、目を見て、その人が「あるものを見ている」ことを理解し、自分もそれを見ると、何か発話をしたくなる。それで、「ワンワン」とか「アーアー」とか「ウーウー」とか言って、指さしたりします。それを見たお母さんの方は、「赤ちゃんがワンワンを見ている」ということを知っているので、「ワンワンね」と言う。そう言うことにより、赤ちゃんも、お母さんが自分がワンワンを見ているということを理解してくれていると思う。その全体像を、お母さんは理解している。そして、そのことが楽しい。そうやって、「そうね。ワンワンね」と言ってうなずくことが楽しい。人間の赤ちゃんは視線を追うが、そのようなことは猿の場合はやらない。だから、共同注視は人間固有なのだ。


【人間の脳の異常な大きさ】
体重と脳重の関係は比例関係であるが、単純な比例ではなく、頭打ち曲線になる。たとえば、ある程度大きくなってしまうと、それ以上体重が増えても脳は大きくならなくなってくるのが普通なのだ。つまり体重が40キログラムを超えたあたりから、脳の重さはそれほど上昇しなくなるわけである。人間の仲間である霊長類の体の大きさはどのくらいで頭の大きさはどのくらいか考えてみよう。体重と脳重の関係をグラフにすればわかる。霊長類には小さなサル類がたくさんいるが、脳が大きいのは、チンパンジー、オランウータン、ゴリラで、これらは非常に大きい大型類人猿です。チンパンジーの体重は大体40キロ。オランウータンは70キロ。ゴリラは100キロを超える。それでもチンパンジーもオランウータンもゴリラも、脳みそは皆、大体380から400グラムぐらいです。ですから、体重が100キロになっても40キロの時から脳重がそれほど増えていないのである。それに対して、人間の体重を大体60キロぐらいだとすると、脳は1200から1400グラムなので、このグラフの曲線からするとおよそ霊長類の中でも3倍の大きさの脳をもっていることになる。

 

【性淘汰】
ダーウィンナチュラル・セレクションの他に、セクシュアル・セレクションということも考えていた。オスとメスが同じ物理的環境に属しているにもかかわらず性差がこれほどあるのは変だと考えたので、自然淘汰では説明できない性淘汰というものを考えたのである。性淘汰の原理は2つである。ひとつ目が雄間競争で、ふたつ目がメスによる選り好みである。では、なぜこのような性淘汰が生じるのかというと、それは配偶子の大きさにある。メスの配偶子は栄養が多くて大きいから大量生産できないが、オスの配偶子は栄養が少なくて小さいから大量生産できる。これによってオスの配偶子は常に余っている状態になるため、オスの競争が激しくなるのだ。


【ランナウェイ仮説】
一般にきれいな色というのは発色が難しく、非常に元気な個体でないと輝くような色は出ないとか、寄生虫や病原体に強いものでないと長い尻尾は伸ばせない、と言える。つまり、雄の遺伝的な強さ、生存力や免疫力が正直にシグナルとして現れているというわけだ。では、尾羽が長く発色が良い個体は必ず強い生存力を備えた個体なのだろうか。調査の結果、必ずしもそうではないということが分かってきた。この奇妙な事態を説明するのが、ランナウェイ仮説である。ランナウェイとは、「どんどん限りなく」という意味。例えば、「尾羽の長い雄がいい」と雌が選り好みを始めたとする。選り好みを始めたときには、長い尻尾をつくるための免疫力の高さが根拠だった。つまり、寄生虫に侵されず、病原体に強い雄でないと、長い尻尾は作れない。だから尻尾を見れば、いい遺伝子を選べるということが、最初の段階にはあったとする。ところが、その選り好みの性質が雌の中に広がっていくと、どんどん限りがなくなってしまう。なぜだろうか。雌が長い尻尾を好むと、その雌から生まれた次の世代の雄は、前の世代より平均して長い尻尾を持っている。そしてその次の世代の雌は、その中でもさらに長い尻尾の雄の方がいいと選り好みをする。次の世代は、集団としてもっと尻尾が長くなる。それが続いていくと、雄の尻尾は際限なく長くならざるを得ない。こうなると、長くなり過ぎて、もう生きていけないというところへ行き着くまで止まらない。最後には雄自身がもう駄目になる限界までいってやっと止まる。雄は、集団の中で平均より長い尻尾を持たないと、はなから雌に見向きもされない。その選り好みは娘に伝わるため、次の世代の娘は「もっと長い尻尾でなければ、嫌だ」となる。双方がどんどん一緒に共進化して、もうこれ以上尻尾が長くなったらうまく生きていけないところまで行き着く。その実例ではないかとされているのが、グッピーのきれいな色です。グッピーの雄はたいへんきれいな色をしているのだが、「雄の色」と「雌の選り好み」、そして「雄が残す子どもの数」と「雄自体の生存力」を比較してみた実験がある。雌は実際にとても派手な雄を好むので、派手な雄ほど「残す子どもの数」が増えていた。ところが、そういう色が派手な雄ほど生存率が低くて、実際に死にやすいことが、研究の結果から分かった。

 

クジャクの羽根】
クジャクの羽の派手さと繁殖成功率に相関はなく、むしろ「ケオンケオン」という鳴き声の回数と繁殖成功率の間に相関があるらしい。

 

【ライオンの子殺し】
ライオンは別の群れを乗っ取ると、前の群れにいた別のオスの子供たちを全員殺してしまう。なぜなら、子育てが終わるのを待っていたらその群れの雌が発情しないし、それを待っていたら別のオスに乗っ取られて殺されるかもしれないからである。

 

【ブルース効果】
配偶相手ではないオスの匂いを嗅いだメスが流産することをブルース効果という。多数回繁殖の動物の場合、「渡り」の時期に差し掛かった場合、そのヒナは捨てる。現時点での繁殖がうまくいきそうにない場合は子育てをその時点でやめて次の機会に賭けるということを動物はするのである。


進化心理学の祖】
ジョージ・ロマニス(1848-1894)はダーウィンの一番若い弟子で動物の心理と人間の心理を比較する比較心理学をやろうとしたが早死してしまった。

 

【「ウェイソンの4枚カード問題」における「コスミデスとトゥービーの仮説」】
「AとKと4と7という文字が書かれた4枚のカードについて、「ある面に母音があればその裏面は偶数でなければならない」という規則が守られているかどうかを調べるにはどのカードをめくってみるべきか。」という問題の正答率は4%から15%(ちなみに答えはAと7のカード)なのに、「ビールを飲んでいる人とコーラを飲んでいる人と25歳の人と18歳のひとという文字が書かれた4枚のカードについて、「ビールを飲むのは20歳以上でなければならない」という規則がみんなに守られているかどうかを調べるにはどの人を取り調べてみるべきか。」という問い方にすると、正答率が75%にまで上昇する。それはなぜか。コスミデスとトゥービーは、それについて「互恵的利他行動が成り立つためには、利益を得るだけでコストは負わないような抜け駆けをするフリーライダーを検知して排除するメカニズムが必須であり、ヒトにはそのようなメカニズムに特化したモジュールが備わっているのではないか。」という仮説を立てた。これが、コスミデスとトゥービーの仮説である。さらにここから「プーさんのおうちに遊びに行く子とイーヨーのおうちに遊びに行く子と緑色の帽子の子と赤い帽子の子という文字が書かれた4枚のカードについて、「プーさんのおうちに遊びに行く時には緑の帽子をかぶらないといけない」という規則がみんなに守られているかどうかを調べるにはどのカードをめくってみるべきか。」というような問題に変えることで、単に馴染みがあるから正答率が上がるのではなく、馴染みがなくても契約には敏感に反応しているのだということを彼らは実験によって明らかにしようとした。


【原始から「うつ症状」はあったが「うつ病」はなかった】
うつを引き起こす脳機能は非常に古くからあり、ネズミにもうつがある。つまり、「やってもやってもうまくいかない」という経験が重なると落ち込んでやめてしまう、という脳の仕組みはかなり古く、哺乳類ならみんな持っている。なぜならそのようになるのが進化的に考えて適応的だからである。狩猟採集民も、そのように嫌なことが連続して続くと、ずっと引っ込んでいるということはあったはずだ。しかし、このような「うつ状態」はあっても、それを全く病理だとは思われなかった。それはなぜだろうか。その答えは、カレンダーもなく、時計もないのだし、別に9時から5時まで働かなければいけないということはなかったからである。だから、適当な時間に皆で集まって狩りに行くけれど、「あの人、この頃ずっと落ち込んでいるよね。でもまあいいんじゃない。」というような、そうした世界だった。今では病院に通い、薬を飲むことさえある。今のような社会になると、時間を管理されるので、古くからあったこの全く同じ症状が「病気」として認識される。これは、赤ちゃんのころ大きかった母親の手のひらのなかのリンゴが、大人になってから見ると小さく見えるのと同じで、りんご自体は変わらなくても、りんごをどう意味づけるかには可塑性があるからである。テクノロジーの進歩によって、人間それ自体の根本部分は変わらなくても、人間社会がそれをどう意味づけるかは劇的に変わる。うつ症状は変わっていなくても、その人がどう扱われるかは劇的に変わる。本性的に変わらないところは変わらなくても、日常的にやっている可塑性のある部分は激変するわけだ。


【素朴生物学と素朴物理学と素朴心理学が人にはあらかじめキャナライズされている】
「何が食べられるものか、何が危険なものか、こういう生き物はどういう動きをするのか」ということに関する知識が、生得的にキャナライズ(canalize)されているということを素朴生物学という。デイビッド プリマックというアメリカの心理学者が1970年代に「心の理論(Theory of Mind)」を最初に考えた時、言語の不思議について書いた本が『GAVAGAI』である。原始人の世界で、川のほとりでウサギがばっと横切ったところ、そこである原始人が「GAVAGAI」と言った。ここには、それを聞いていた他の原始人は、なぜ「GAVAGAI」を「ウサギ」だと分かるのか、という問題がある。この「GAVAGAI」は、ウサギの動きのことかもしれないし、耳だけのことかもしれないし、白色のことかもしれない、ウサギを見て沸き起こった感情のことかもしれないし、その日の天気のことかもしれない。「GAVAGAI」の意味には、さまざまな可能性が考えられる。その中で、なぜ走っていったウサギを見て「GAVAGAI」と言ったことに対して、それは「ウサギ」を意味すると皆が分かるのか、という素朴な疑問をもとに、言語の不思議さを書いている。それが『GAVAGAI』という本である。明らかに人間は言語を使うときに、その意味を「決め打ち」によって理解している部分があるのだ。例えば、お母さんが「これ「みかん」よ。「み・か・ん」」と言って赤ちゃんにオレンジ色の果物を提示した場合に、それが緑色のヘタの名前であると誤解されない保証は全くないのに、赤ちゃんはあくまでもその果物の全体を優先して理解し、部分の理解は後回しにされるのだ。また、「黄色と黒」で毒々しい危険を表す虫がいるのも、感知する側にもそのように思えないと意味が感受できないわけで、その意味ではすり合わせがあらかじめできているということである。これは共進化の一例である。毒虫の方は喰われないように毒々しい色を進化させ、捕食者の方は喰わないようにその色に対する素朴生物学をキャナライゼーションしたことになる。そして今度は、その捕食者に素朴生物学が備わっていることに適応して、毒がないのに毒々しい色を備えるようなテントウムシなどが現れることになる。


【ウイルスとは何か】
ウイルスは遺伝情報を包んだ袋であって細胞ではない。また、ウイルスは自分でエネルギーを得て代謝することができないので他の生物の細胞に入り込み、そこの力を借りて自らを複製してもらっている。それゆえウイルスは「生物」とは言えないが、複製体ではある。だから、ウイルスは細胞を持った肺炎菌や大腸菌などの細菌類とは全く異なるのだ。ウイルスの大きさは数10ナノメートルから数100ナノメートルで普通の細胞の100から1000分の1の大きさである。ウイルスには、遺伝情報とそれを覆うタンパク質の殻である「カプシド」のみの構造のものが基本なのだが、そのさらに外側に「エンベロープ」という脂質の膜があるものもある。新型コロナウイルスエンベロープを持っていて、エンベロープはリン脂質なので、アルコール消毒をしたり石けんを用いて手洗いしたりすると、油が石けんで落ちるのと同じ原理でエンベロープも壊れるわけだから、これが非常に効果的である。ウイルスがどの細胞に入れるのかはきわめて特異的に限定されており、インフルエンザウイルスなどは鼻や気道の上皮細胞であるし、ノロウイルスは腸の細胞であるし、単純ヘルペスウイルスは口唇と口内の細胞だけである。家畜の「口蹄疫ウイルス」も有名である。有名な植物ウイルスは、「タバコモザイクウイルス」というもので、タバコの栽培を阻害する病気を発現させる原因として研究が進み、それがウイルスであることが判明した。植物は自らの遺伝子のなかにウイルスに対抗できる遺伝子を進化させて保持している。単細胞で人間に悪影響を与えるものは「バイ菌」と呼ばれるが、そのような細菌類に感染するウイルスで有名なのが「バクテリオファージ」である。ウイルスには、DNAを持っているものと、RNAを1本持っているものと、RNAを2本持っているものがある。1980年代に「天然痘ウイルス」を撲滅できたのはなぜかというと、「天然痘ウイルス」はDNAを持っているウイルスだったからである。そもそもDNAの二重螺旋構造というのは遺伝情報保存のための強固な構造であるから、天然痘が変異したりする前に人間による対抗策が取りやすかったのである。しかし、そもそもRNAは1本鎖である。ということは、変異しやすい。さらに、RNAから逆にDNAを作れる逆転写の構造をもつウイルスを特別に「レトロウイルス」という。このレトロウイルスは、逆転写酵素の働きが不正確で、裏情報から表情報をつくる際の精度が高くないので、ウイルスの遺伝情報が頻繁に変化していくため、進化速度が非常に速くなることが知られている。ヒトの免疫を壊す病気であるAIDSの原因となるHIVウイルスの進化速度は、宿主の細胞の100万倍である。レトロウイルスとは要するに、逆転写酵素を用いて一本鎖RNAを読み取って「マイナスの裏DNA」をつくり、それを鋳型として本物のDNAを宿主の細胞内で生成するというウイルスである。宿主の細胞が自分のDNAを用いてさまざまなタンパク質をつくる際に、宿主のDNAのなかにウイルスのDNAが埋め込まれているので、そこからメッセンジャーRNAがつくられて、さらにそこからウイルスのタンパク質がつくられていく。これが、レトロウイルスに乗っ取られるということの意味である。大きな被害をもたらす有名なウイルスのほとんどは、このDNAウイルスよりも変異しやすい1本鎖RNAのウイルスで、HIVウイルスも新型コロナウイルスも、SARSウイルスも、エボラウイルスも、インフルエンザウイルスも、ノロウイルスなどもそうである。ちなみに、HIVウイルスの起源はアフリカのサルのSIVであろうと言われている。インフルエンザウイルスの場合は、もともとカモやアヒルといった水鳥に感染するウイルスだった(ただし水鳥はインフルエンザウイルスとの共生に成功しているので症状は出ない)らしいが、水鳥からニワトリへ、ニワトリからブタへ、さらにブタからヒトに感染するようになったという。エボラウイルスは、アフリカのコウモリの仲間が起源だと言われているがよくわかっていない。黄熱病の場合には、蚊が媒介してアフリカで発生している。キャサヌル森林熱はマダニに刺されると感染するが、これらはインドのリス、コウモリ、サルなどの動物への感染を媒介しており、それらに既に吸血したマダニにヒトが吸血されると感染するという仕組み。マールブルグ熱もウイルス由来の病気である。妊婦が発症すると胎児に影響が出るジカ熱やデング熱は、「ネッタイシマカ」という蚊が媒介していて、この蚊に吸血されると発症する。

 

能登客院と敦賀客院】
渤海(698-926)」という国が、今の沿海州にあった時、能登客院、敦賀客院(つるがきゃくいん)という呼び名で、能登半島や今の福井県敦賀(つるが)に渤海の国の使節をきちんと迎えるところがあった。そこから彼らは奈良、あるいは京都に行った。