⑴.【「that」は一回的だが「it」は反復的】(by マーク・ピーターセン)
①
A:I like having a glass of limoncello after dinner.
B:I think it is a superb custom.
②
A:I’m thinking of having a glass of limoncello after dinner. What do you think?
B:That sounds great.
⑵.【「that」は未知情報だが「it」は既知情報】(神尾昭雄)
①
A:Overnight parking on the street is prohibited in Brooklyn.
B1:That’s absurd. (=ブルックリン在住ではない)
B2:It’s absurd. (=ブルックリン在住)
②
A:I won the lottery!
B:That’s amazing.
⑶【「that」は具体的で特殊的で指示的で感情的だが「it」は抽象的で主題的で非指示的で淡白】(by 高橋英光)
「that」を「it」で受け直すことができるが、「it」を「that」で指すことはできない。
もの⇄くだもの⇄いちご⇄あまおう
「いちごはものです」とは言えるが、「ものはいちごです」とは言えない。
「果物」を「いちご」で指すことはできないのと同様に、「it」を「that」で指すことはできない。
その証拠に、「仮主語のit」や「仮目的語のit」や「天気や時間を示す状況のit」を「that」にはできない。
①
A:Thanks for the tickets.
B:Oh it’s nothing.(=淡白であるがゆえに恩着せがましくない表現)
② Are you really going to marry that?(=感情的であるがゆえに軽蔑的表現)
③ He failed the exam. I can’t believe that!(=感情的)
④ He failed the exam. I can’t believe it.(=淡白)
⑤
A:Thank you for the ride, George.
B:Don’t mention it.
⑥
A:They hate each other.
B:Don’t mention that!
⑦
「that」は指示的なので、注目させないと伝わらないような対象(=非主題)を指す
「it」は非指示的なので、注目させなくても伝わるような対象(=主題)を指す
A:I don't see why the company would want to pay for first-class travel.
It's just a wider seat and better food service.
B:○ Oh, it's a lot more than that.
B:× Oh, that's a lot more than it.
⑷.【「that」は抽象的だが「it」は具体的】(by 多くのネイティブ)
→目の前にありすぎると、わざわざその目の前の物体を指示するとしつこくなるから、具体物に「it」を使うこともある。
→遠くに物体がある状況ならば「that」はその遠くの物体を指していると解釈されるが、目の前に物体があるのにも拘らず「that」を使うと、その「that」が目の前の物体をわざわざ指しているとは考えにくいので、なにかしら注意を向けるべき事態が別にあるのだろうと推定されてしまうのだ。こうして多くのネイティブスピーカーは、「that」は抽象物を指し、「it」は具体物を指すなどと、ここまでの話とは全く逆の、一見これまでの理論とは矛盾しているような説明をするのである。しかし、実は文法理論家の説明と、ネイティブスピーカーの説明は、観点が違うだけで、どちらも間違っていない。
①
A:I'll have my hair cut tomorrow.
B:That’s nice.
(→初めて知った一回的な思いつきにはthatを使っている)
②
A:I had my hair colored!
B:It’s nice.
(→目の前にある髪の毛を指示するのはしつこいのでitを使っている)
③
A:How was the interview?
B:It was fine.
(→かねてからの話題である面談にはitを使っている)
④
A:I lost my suitcase at the airport.
B:That’s terrible.
(→初見の事態には驚きの感情を込めてthatを使っている)
⑤
A:How would you advise him?
B:That’s an interesting question.
(→初見の質問にはthatを使っている)
⑥
A:How was your date?
B:That's a good question. It was good.
(→初見の質問にはthatを使い、かねてからの話題である面談にはitを使っている)
⑦
A:You have to eat!
B:I know that!
(→突然のアドバイスに苛立ちの感情をこめてthatで答えている。自分が痩せすぎているからもっと食べないといけないことは承知していたけれども、そのことは、ここまでの話題の中心であったわけではなく、いまポッと相手の口から出てきたので、thatで指している)
⑸.【では「that’s it」とはなんなのか】
⓪
A:Is this what you are looking for?
B:Yes that's it!
「that's it!」の意味は、
「今目の前に現れた「that」で指示されるべきもの」
は
「ずっと念頭に置いていたので指示する必要のない主題「it」」
なのだよ!
という意味である。
プレゼンテーションの終わりの挨拶でも「that's it!」ということがあるが、これは「いま話したあのこと(=that)がこのプレゼンで証明した結論(=主題=it)です」という意味で、これはつまり、「スクリーンに映っているあれがみなさんに冒頭で証明するとお約束していた結論です」というような意味である。
英語のプレゼンでは最初に結論を提示してその結論が最終的に正当化されることを予告してから話しだすのが定石であるため、このひとことが終わりの挨拶としては非常に適切だということになる。
だから、「that's it!」は「それがそれです」と訳すというよりは、「あれがそれです」と訳すとかなりいい訳になる。
⑹.【まとめ】
⓪
Steve:Kate, will you marry me? We were made for each other.
Kate:That's quite a line, Steve. You mean fate brought us together?
Steve:That's exactly what I mean. We are the perfect couple.
Kate:We've had a few nice dates. But marriage is a big commitment.
Steve:Sure it is. But I'm ready to take the plunge.