【化学の面白さ】
以下では、あくまでも話題提供という程度の意味でしかないが、化学について私がこれまで書いてきた140個のノートを見やすく整理して掲載しておく。誰かに読まれることを想定して書いていたわけでは全くないが、これをパラパラと見ていけば、化学は非常に面白く、少し勉強すれば日常の中で抱かれるちょっとした疑問がどんどん解決されて行くので、知的に毎日が刺激されまくる、たいへん愉快な学問だということくらいは、あなたにも伝わるかもしれない。私は化学を勉強してみた結果、日常がものすごく高解像度で見えてきて、非常にQOLが向上したので、ガチでおすすめである。
1.【化学式のスマホでの書き方】
「₁₂₃₄₅₆₇₈₉₀」と「⁺と⁻」という文字列をアイパッドの「ユーザー辞書」などにあらかじめ登録しておけば非常に素早く「エタノール:C₂H₅OH」とか「Na⁺」みたいに書いていくことができる。ちなみに化学記号が作られたのは18世紀末である。原子番号92番のウランまでが自然界に存在していて、それ以降は人工的に合成したものであるとはいえ、周期表の119番以降の元素も、現在人工的に作り出すことが目指され、探求されているらしい。
2.【「セントラルサイエンス」とも呼ばれる「化学」という学問で今アツい主題】
①ナノカーボン、②メタマテリアル、③人口細胞、④認知症治療薬、⑤がんの治療薬、⑥海水淡水化(逆浸透膜の開発)、⑦バイオ環境浄化、⑧常温超電導、⑨太陽畜電池、⑩人工光合成、⑪分子マシン(ナノカー、分子スイッチ)、⑫生命の化学的起源の解明、⑬混合物直接解析、⑭「超臨界流体状態の二酸化炭素」による布の染色、⑮二酸化炭素を原料にしたプラスチック製造、など。
3.【バイオミメティクス:ヤモリはなぜ壁から落ちないのか問題】
ヤモリの足には数億本に枝分かれした毛が生えている。毛と対象物とが接近すると「ファンデルワールス力」が働いて優れた接着力が発揮される。カーボンナノチューブを使ってこれを再現したテープは驚異的な粘着力を達成する。蜘蛛の巣の糸もバイオミメティクスに使われており、人工タンパク質が作られている。汚れが落ちやすいカタツムリの殻から、外壁用のタイルの素材が作られている。4キログラムの重さでライオンの顎の力である3300ニュートンを出せるヤシガニのハサミもそうである。
4.【ナノってどのくらいの大きさなのか】
ナノとは1mを10億個に分けたうちの一つで、その10分の1の大きさが原子の大きさである。
5.【レアメタルとは何か】
レアメタルの代表はインジウムやリチウム。インジウムはスマホの製作に使う。
6.【鉄の精製法はこんな感じ】
鉄鉱石から石灰石で不純物を取り除き、さらに鉄鉱石とコークスを一緒にして1538度以上に熱する。鉄の融点は1538度である。
7.【金は単体で自然界に存在するからすごいのである】
金Auは純物質で単体で自然界に存在するという点でも珍しい金属である。
8.【金属はそもそも何種類あるか】
金属は約80種類ある。アルミニウムを単体で取り出せるようになったのは19世紀末である。
9.【合金と超合金は金属の短所の克服によって生まれる】
青銅は銅にすずを混ぜた合金である。新幹線はアルミニウム合金のジェラルミンが使われている。鉄にクロムやニッケルを加えて作るステンレスも合金である。鉄にクロムとニッケルを混ぜるのがステンレスで、アルミニウムに銅とマグネシウムを混ぜるとジェラルミンになる。マグネシウムに亜鉛とイットリウムを混ぜるとマグネシウム合金が作れる。「マグネシウム」はめっちゃ燃えやすいのに「マグネシウム合金」は燃えにくい。超合金というものもある。ニッケルにクロムとタングステンを混ぜると1100度の融点を持つ超合金が作れる。ジェット機のタービンは超合金である。
10.【消しゴムもプラスチックである】
消しゴムはポリ塩化ビニルというプラスチックであるし、メガネのレンズはアリルジグリコールカーボネート樹脂というプラスチックであるし、水族館の水槽はメタクリルというプラスチックである。飛行機の翼も炭素繊維強化プラスチックである。不織布マスクもプラスチックである。
11.【純物質と混合物を区別せよ】
100パーセントオレンジジュースは混合物である。空気も混合物である。海水も混合物である。水は純物質である。1円玉だけは純物質である。砂糖はショ糖の結晶だから、純物質である。混合物は沸点が一定ではないが純物質は一定である。混合物から純物質を取り出すことが「分離」である。分離の方法には①濾過や②クロマトグラフィー(移動速度の違いを利用する分離)や③蒸留(沸点の違いを利用する分離)や④抽出や⑤再結晶などがある。例えばジエチルエーテルという溶媒を使えばオレンジジュースから色素だけを抽出できる。分離を繰り返して純物質を作っていく操作を「精製」という。
12.【化合物と混合物を混同してはならない】
混合物はただ混ざり合っているだけだからそれぞれの純物質の性質がそのまま残っているが、化合物はそうではない。例えば、ワインは混合物であって化合物ではない。純物質のエタノールを飲めば酔うが、混合物のワインを飲んでも酔う。だからワインは混合物である。エタノールは炭素と水素と酸素の化合物であるが、炭素や水素や酸素の液体はエタノールに性質が全然似ていない。エタノールは純物質であるが、化合物でもある。世界にある物質はほとんど混合物である。水は水素と酸素の化合物であるが純物質である。
13.【ダイヤモンドダストとは何か:昇華である】
空気中の水蒸気が冬の朝に一気に固体になることをダイヤモンドダストという。
14.【二酸化窒素の使い方】
二酸化窒素は空気より重く、しかも赤褐色なので空気中で熱運動によって気体が拡散していく様子を観察できる。
15.【エタノールの表面張力は水より弱い】
分子間力は水よりもエタノールの方が弱い。だから、エタノールはコップになみなみに注いだりするとすぐにこぼれてしまう。こぼれ方で、無色透明な液体でもどちらが水でどちらがエタノールかは分かる。
16.【純物質の中でも単体と化合物を区別せよ】
エタノールC₂H₅OHはワインに入っている純物質で化合物だが、単体ではない。単体というのは例えば、N₂などである。Mgも単体である。CuOは化合物である。CO₂は化合物である。しかし、単体も化合物も純物質であることに注意せよ。水は化合物である。アルミニウムは単体である。黒鉛は単体である。食塩は化合物である。ポリエチレンは「(C₂H₄)n」と表記し、化合物である。しかし、上記は全て純物質である。H₂は単体でO₂は単体で、H₂Oは化合物であるが、全てこれらは純物質ではある。しかし、水H₂OとエタノールC₂H₅OHを含むワインは混合物である。要するに、一種類の元素からできている純物質が単体で、複数元素からできている純物質が化合物なのだ。そして、化合物は混合物ではないのだ。また、化合物は、その成分元素の単体からできているわけではないのだ。
17.【酸化銀を分解してみよう】
酸化銀は電気を通さない化合物だが、これを熱して酸素と銀という単体に分解すると、その銀は電気を通す。これを化学式で書くと、「2Ag₂O→4Ag+O₂」となる。Ag₂Oは化合物だが、AgとO₂は単体である。
黒鉛はCの単体で、ダイヤモンドもCの単体である。しかし、構造模型が三角形になるのがダイヤモンドで四角形になるのが黒鉛である。ダイヤモンドは固くて電気を通さず、黒鉛は柔らかくて電気を通す。この組み合わせを互いに同素体という。同位体とは違うので注意せよ。同位体は同じ陽子の数なのに中性子の数が異なる物質のことである。①単斜硫黄と②斜方硫黄と③ゴム状硫黄も同素体である。ちなみに、硫黄にニ硫化炭素で溶かして蒸発させると斜方硫黄が作れる。車のタイヤに硫黄を使うのは弾力性を高めるためである。
19.【元素と単体を混同してはならない】
「フッ素配合歯磨き」に入っているのはフッ化ナトリウムNaFという化合物の純物質で単体のフッ素F₂という純物質は入っていない。単体は普通に存在する物質であるが、元素は物質を構成する成分物質であると考えるとよい。水も純物質で化合物だが、単体の水素H₂や酸素O₂は入っていない。元素のHや元素のOは成分として水に含まれている。
20.【どの金属元素からできているかはどうやって調べるのか:炎色反応】
打ち上げ花火は色々な色がある。花火の色は金属元素から作られている。例えば、水に溶かした塩化リチウム(塩化リチウム水溶液)を白金線につけて燃やすと赤い炎になる。ナトリウムは黄色で、カリウムは赤紫色で、カルシウムは赤橙色で、銅は青緑色で、ストロンチウムは濃赤色で、バリウムは黄緑色になる。
21.【どの非金属元素からできているかはどうやって調べるのか:沈殿】
塩素の場合は沈殿によって検出する。塩化カルシウム水溶液に硝酸銀水溶液を加えると白濁する。これが塩化銀の沈殿である。こうやって、「塩化カルシウム水溶液に塩素が含まれていること」を検出するのである。例えば、水道水に硝酸銀水溶液を加えると塩化銀が沈澱する。これで水道水に塩素が含まれていることが検出できる。塩化ナトリウムや塩化カリウムでも硝酸銀水溶液を加えて塩化銀を沈殿させるという同じ方法で塩素が検出できる。また、石灰水を使う沈殿もある。炭酸カルシウムに塩酸を加えると二酸化炭素が発生するが、この二酸化炭素は石灰水の中の水酸化カルシウムと反応して石灰水は白濁する。これによって、「炭酸カルシウムに塩酸を加えて発生した謎の気体の正体は二酸化炭素だったのだから、炭酸カルシウムに炭素が含まれていること」が検出できる。
22.【地球の地殻を構成する元素は?】
地球の地殻を構成する元素は50%が酸素で25%がケイ素で、7%がアルミニウムで、4%が鉄で3%がカルシウムである。
23.【人体を構成する元素は?】
人体は65%が酸素で、筋肉はタンパク質だから20%は炭素である。水素が10%で、カルシウムはかなり少ない。
24.【銅とクロムは環境に有害なので注意】
銅やクロムは廃液として工場から排出してはならない。
25.【原子の大きさはどのくらいなのか】
金箔の断面(=0.0001mm=1万分の1ミリメートル)には金の原子が350個並んでいる。炭素原子とゴルフボールの比はゴルフボールと地球の大きさに等しい。原子の大きさの3億倍がゴルフボールの大きさになる。ちなみに、原子核が2mmだとすると、原子全体はドーム球場くらいの大きさになる。ナノとは1mを10億個に分けたうちの一つで、その10分の1の大きさが原子の大きさであるから、原子は10億分の1メートルと覚えておくと良い。例えばシリコンの表面はSTM(走査型トンネル顕微鏡)で見ると、ケイ素の原子がひし形に並んでいる。
26.【超電導物質とは何か】
非常に低い温度に冷却すると電気抵抗がなくなる物質が超電導物質である。代表はインジウムである。電気抵抗がなくなった時に電気を流すとずっと流れ続ける。現状、超電導物質を冷却するにはマイナス269度の液体ヘリウムが必要になる。超電導物質はリニアモーターカーなどに使われる。
27.【水とエタノールを混ぜると、体積はその和にならない】
水50mLとエタノール50mLを混ぜると体積は97.5mLくらいになる。100mLにはならない。粒子の大きさが違うからである。
28.【ジョン・ドルトンの功績】
ドルトンはとても几帳面な性格で、全ての実験を自分でおこなう人だった。ドルトンは1803年に原子説を発表し、地水風火の四元素説が滅びた。
29.【質量数は元素記号の左上に書き、原子番号は元素記号の左下に書く】
原子核が2mmだとすると、原子全体はドーム球場くらいの大きさになる。陽子と中性子の質量はほぼ同じで、これを1840とすると電子の質量が1になる。つまり、陽子と中性子は電子の1840倍重い。だから、原子の質量の大部分は陽子と中性子の質量となるから、陽子と中性子の質量の和を原子の質量数と呼んでいる(後述するが、「原子の質量数」と「原子量」は近い値になる。質量数が12で「原子番号」が6の炭素の相対質量は「12 (相対値だから単位なし)」と国際的に定められており、その炭素の原子量は「12.01 (相対値だから単位なし)」である。なぜ相対質量と原子量がちょっとだけ違うのかというと同位体があるからである)。陽子の数がその原子の「原子番号」である。陽子の数は原子の種類ごとに決まっている。元素記号の左下に書いてあるのが「原子番号」で左上に書いてあるのが「質量数」である。例えば、スーパーカミオカンデで、ニュートリノを検出する感度を上げるために超純水に溶かし込まれている「ガドリニウム」の原子番号は64番である。
30.【最重要項目:「①相対質量」と「②絶対質量」と「③原子番号」と「④質量数」と「⑤原子量」と「⑥原子量の概数値」と「⑦分子量」と「⑧イオンの相対質量」と「⑨式量」と「⑩物質量」とを混同してはならない】
炭素原子1個の質量は1.99×10⁻²³gである。原子1個の重さはそれぞれ違う。例えば、水素原子1個の質量は1.67×10⁻²⁴gし、酸素原子1個の質量は2.66×10⁻²³gであるし、ナトリウム原子1個の質量は3.82×10⁻²³gである。こうやって測る重さは絶対質量である。絶対質量にはグラムという単位がある。しかし、相対質量には「グラム」みたいな単位がない。なぜなら、例えば、例えばゴマ1粒(=0.003g)を「1」とした時にコメ1粒(=0.03g)は「10」で小豆1粒(=0.15g)は「50」になるが、これに単位はないからである。つまり、相対質量は比だからである。質量数12の炭素原子1個(←同位体は質量数13とかだからここでは基準にしない)の絶対質量1.99×10⁻²³gをピッタリ「12」とした時、水素原子1個1.67×10⁻²⁴gの相対質量は「約1.0」になるのだ。酸素原子1個の相対質量は「約16.0」になるし、ナトリウム原子1個の相対質量は「約23.0」になる。ところで、質量数(=陽子の数すなわち原子番号と中性子の数の和)が12で「原子番号」が6の炭素の相対質量は「12.0(相対値だから単位なし)」と国際的に定められていると述べた。しかし、その炭素の原子量は「12.01 (相対値だから単位なし)」である。これはどういう事情なのか。「原子の相対質量」は「原子量」と近い値になるが微妙に異なる。その理由は同位体があるからである。原子番号が同じなのに中性子の数が異なるために質量数が異なる原子を互いに同位体という。炭素の場合も安定した存在比で自然界に同位体が存在する。たとえば¹²Cは98.94%の存在比だとか、色々な存在比が既に知られているのである。この同位体の存在比と、それぞれの相対質量から原子の相対質量の平均値を求めたものが「原子量」で、それゆえ原子量も相対値になるから(=相対質量の平均値も相対質量に過ぎないから)、相対質量に単位がないのと同様に、原子量に単位などないのである。原子量は相対質量の平均値であって相対質量のことではないので注意しよう。そこで、炭素の原子量は本当は「12.01」だが、普段は計算が複雑にならないように、「原子量の概数値」である「12」を用いている。炭素の相対質量は「12」だと国際的に定義されていた。すると、「原子量の概数値」と「炭素の相対質量」とは一致していることになる。炭素の原子量の概数値である「12」を基準にした「分子の相対質量」が「分子量」である。分子量は「原子量の概数値の和」なので結局、相対質量になるから、これにも単位はない。二酸化炭素CO₂の分子量は44だし、水H₂Oの分子量は18になる。食塩のように、イオン結晶でイオンが規則正しく並んでいるだけなので分子が存在しない物質については、「分子量」など考えようがないので、「分子量」の代わりに「式量」が使われる。例えば食塩NaClの式量は「23+35.5=58.5」となる。このことから、イオンになることで増減した電子の質量は無視できるほど小さいので、「イオンの相対質量」と「原子量の概数値」はほぼ等しいのだと化学者がみなしていることがわかる。で、この「イオンの相対質量」の和が「式量」なのである。こういうわけなので、「原子の相対質量」も「原子量(= 同位体が存在する原子たちの相対質量の平均値)」も「原子量の概数値」もそれをもとにして計算された「分子量」も「式量」も全て、相対質量(=絶対質量の比)であるから、単位はないということがわかる。相対質量は「比」でしかないのだ。さて、ここからは物質量の話になる。例えばゴマ1粒(0.003g)を「1」とした時にコメ1粒(0.03g)は「10」で小豆1粒(0.15g)は「50」になる。この時、このことを逆から言うと、1gのゴマ粒の山を作るのにはゴマが333個必要で、10gのコメ粒山を作るのにはコメが333個必要で、50gの小豆の山を作るのには小豆が333個必要になる。つまり、相対質量とは、「複数の原子を1個だけ集めてきたときの絶対質量の間の比」という解釈だけでなく、「複数の原子を同じ個数だけ集めて来た時の絶対質量の間の比」だという解釈もできるのである。例えば、絶対質量0.003gを「1」とした時、相対質量が「3」のものを2つ集めてきたら相対質量は「6」で絶対質量は0.018gになるが、相対質量が「6」のものを2つ集めてきたら相対質量は「12」で絶対質量は0.036gになる。ここで、1個の時の相対質量「3」と「6」の間の比「1対2」は、2個の時の相対質量「6」と「12」の間の比になっても保存されているだけでなく、絶対質量0.018gと0.036gの間の比においても保存されているのである。同様に、相対質量が3のものを3つ集めてきたら9になるが、相対質量が6のものを3つ集めてきたら18になる。しかし、最初の3と6の間の比は9と18の間の比と比べてみると、保存されているし、絶対質量0.027gと0.054gの間の比においても保存されているのである。4つ集めてきた時も5つ集めてきた時もこれと同様だから、「同じ個数だけ集めて来たならば、1粒どうしの相対質量の比は、その粒の集団どうしの絶対質量の間の比と一致するし、逆もまたしかりだ(=個数と絶対質量は物体の種類が違くても同じ仕方で比例する)」と言える。そうだとすると、このことを逆から利用すれば、「あるゴマ山とあるコメ山の絶対質量の比がゴマ1粒とコメ1粒の相対質量の比と一致しているならば、その山に含まれるゴマ粒の数とコメ粒の数は一致する」と言うことができる。実際にやって実験してみよう。3グラムのゴマ山と30グラムのコメ山があったとして、この絶対質量の比1対10は、ゴマ1粒とコメ1粒の相対質量の比1対10と一致している。この時、ゴマ山に含まれるゴマ粒の数は1000個であり、コメ山に含まれるコメ粒の数は1000個であり、本当に一致していることがわかる。このことに注目して定義された量が「物質量」である。「物質量」というのは、「どんな原子でも、1粒あたりの相対質量の比と等しい絶対質量の比になるように原子集団を作ってやると、その原子集団に含まれる原子の個数は等しくなること」を利用して定義された量なのだ。例えば、水素原子の集団1.0gと炭素原子の集団12.0gには、どちらにも6.0×10²³個ずつの粒が含まれていることになる。これは1粒あたりの相対質量の比すなわち1対12と絶対質量の比が等しいからである。「6.0×10²³個」のことを「アボガドロ数個」と表現することがある。そして「1アボガドロ数個の粒子の集団」のことを「1モルの粒子の集団」と表現する。つまり、「物質量」とは「粒子の個数」のことである。黒鉛12gも水18gも食塩58.5gもみんな構成粒子の数は、6.0×10²³個で等しいのである(ちなみに、6.0×10²³個集まった時の絶対質量がモル質量である)。なぜなら、黒鉛Cの1粒(原子量12)、水H₂Oの1粒(分子量18)、食塩HClの1粒(式量58.5)あたりの相対質量の比と、絶対質量の比が等しいからである。要するに、「物質量の比」は「原子の数の比」である。「6.0×10²³個の粒子の集団」のことを「1モル」と呼んでいるのである。1モルの気体の体積は、水素でも酸素でも二酸化炭素でも標準状態(=0℃かつ1013hPa)では常に22.4 Lである。これを「アボガドロの法則」と言う。この1モルの気体の体積22.4Lのことを「モル体積」と言う。逆に言うと、「0℃かつ1013hPaで44.8Lの気体」は水素でも酸素でも二酸化炭素でも2モルである。
アボガドロ定数は原子や分子1モルあたりに含まれる粒子の個数のことで、アボガドロ数は「6.0×10²³」という数のことである。「アボガドロ数/mol」が「アボガドロ定数」である。「1モルあたりの粒子の数」が「アボガドロ定数」である。粒子が1モル集まった時の質量がモル質量である。水180gだったら10モルだということがわかる。1円玉は27枚集めるとアルミニウム1モルになる。
32.【アボガドロ定数を求める公式】
「物質量(mol)=粒子の数÷アボガドロ定数」という公式を「アボガドロ定数=粒子の数÷物質量」と変形して、そこに「物質量(mol)=質量(g)÷モル質量(g/mol)」を代入すると、「アボガドロ定数=粒子の数÷(質量(g)÷モル質量(g/mol))」となってこれをさらに変形すると、「アボガドロ定数=粒子の数×モル質量(g/mol)/質量(g)」という公式が得られる。
33.【気体の密度を比べると気体を識別できる】
水素の気体の分子量は2で、酸素は32で、二酸化炭素は44である。どれも体積は標準状態だと22.4Lになってしまう。だから、密度で見分けるのがいい。シャボン玉を作ってすぐに上に飛んでいくのは水素である。1Lあたり二酸化炭素は2gで、酸素は1Lあたり1.4gで、水素は0.089gである。密度は「g/L」という単位で表す。例えば水素の密度は、「0.089g/L」となる。
34.【空気の平均分子量を覚えておくメリット】
1モルの空気には微量なものを無視すれば0.80molの窒素、0.20molの酸素が含まれていることになる。窒素のモル質量は28g/molで酸素のモル質量は32g/molだから、空気1モルの質量は28×0.8+32×0.2=28.8gになる。同じ理屈で空気の平均分子量は「28.8」になる。メタンは分子量が16で、一酸化炭素の分子量は28である。だから、どちらも部屋の天井の方に貯まることになる。報知器が天井についているのはそれが理由である。それに対してプロパンの分子量は44なので空気より重いので床に報知器をつけないと意味がない。
35.【標準状態で5.6Lの窒素の質量はいくらか】
5.6Lの窒素の物質量は0.25molで、窒素のモル質量は28g/molだから、この窒素の質量は7.0gとわかる。こんなふうに、なんでもとりあえず物質量という共通言語を媒介させればさまざまな化学量の相互変換が可能になるというわけだ。
36.【化学では濃度を「グラム(あるいは質量パーセント濃度)」では考えず、「物質量(あるいはモル濃度)」で考える】
溶媒に溶質が溶けて溶液ができることを溶解という。「質量パーセント濃度=溶質の質量/溶液(=溶質+溶媒)の質量」という公式を習ってきた。例えばコーヒー200gに砂糖20gを溶かした時の砂糖の「質量パーセント濃度」は、「20/220×100=約9.1%」となる。「20/200×100=10%」だと答えさせる典型的なひっかけ問題である。同様に、「5%の食塩水80gに含まれる塩の質量はいくらか」と聞かれたら、「x/80×100=5%」より、「x=4g」となる。しかし、化学ではこの「質量パーセント濃度」を使わずに濃度を考えることは少ない。そうではなくて「モル濃度」を使う。単位は「mol/L」となる。なぜ化学では質量パーセント濃度ではなくてモル質量を使うのかというと、例え同じ質量パーセント濃度の溶液だとしても溶けている物質が違うと溶けている粒子の数は同じにならないのだが、同じモル濃度の溶液は溶けている物質が違くても溶けている粒子の数は同じになるからなのだ。質量パーセント濃度の方は百分率を使うから×100をする必要があるが、モル濃度の方はその必要はない。例えば、「水酸化ナトリウム2.0gを水に溶かして200mLの水溶液を作ったがこの水溶液のモル濃度はいくらか」と問われたら、「水酸化ナトリウムのモル質量は23+16+1=40g/molだから、2.0gの水酸化ナトリウムの物質量は0.050molとなる。これが200mLの溶液に溶けているんだからモル濃度は0.050mol/0.200L=0.25mol/Lとなる」と答えればよい。
37.【有効数字を意識するとは位取りを示すだけの0を除いて考えることである】
位取りを示すだけの0を除いた意味のある数字のことを有効数字という。掛け算と割り算では、式の中で、最も有効数字の桁数が小さい数に合わせることになっている。例えば、「1.00mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液250mLに含まれる水酸化ナトリウムの質量は何グラムか」と聞かれた時に、「溶けている水酸化ナトリウムの物質量は1.00mol/L×/0.250L=0.250molだから、水酸化ナトリウムのモル質量が40g/molなので、水酸化ナトリウムはこの溶液に10g溶けていることになる」と答えればいいことになる。この時、有効数字が40gだけ2桁なので、2桁に合わせて「10g」と答えるというわけだ。
38.【同位体(アイソトープ)の典型:①水素と②重水素と③トリチウム】
水素は陽子が1個だけの原子。しかし、陽子が1個だけでなく中性子を1個だけ持っているのが重水素である。水素を含むのが水で、重水素を含むのが重水である。水で作った氷は水に浮かぶが、重水で作った氷は水に沈む。同位体は同じ陽子の数なのに中性子の数が異なる物質のことである。水素と重水素とトリチウムは同位体である。水素は質量数が1で、重水素は質量数が2で、トリチウムは質量数が3であるが、しかし全て陽子と電子の数は同じで1個である。違うのは中性子の数だけなのだ。
三重水素は陽子が1つなのに中性子は2つであり、安定していないので、放射線を出してヘリウムに変わろうとする。炭素は原子番号6で、質量数は普通12だが、14のものを「炭素14」と呼んで、これは放射性同位体である。「炭素14」は放射線を出して窒素に変わろうとする。
40.【遺跡の調査に使う「炭素14」というラジオアイソトープ】
植物は大気中に微量に含まれる「炭素14」を光合成で吸収しているわけだから、植物中の「炭素14」の存在量と大気中の「炭素14」の存在量はほぼ等しい。しかし植物が死ぬと光合成が終わり、「炭素14」を吸収できなくなる。すると、「炭素14」が放射線を出しながら窒素に少しずつ変化して減っていく。「炭素14」の半減期は5730年だから、大気中の「炭素14」の存在量と植物の化石に含まれる「炭素14」の存在量を比べれば、その植物が死んでから何年経ったのかがわかるのだ。ちなみに動物でも同じことができる。例えばナウマンゾウの歯の化石の年代は「炭素14」の測定でわかる。
41.【半減期は元素によって様々である】
「放射性同位体である炭素14」の半減期は5730年だが、「放射性同位体であるフッ素18」の半減期は110分である。半減期が少ないものは人体に悪影響の出ない仕方での放射線検査に使える。
42.【水の極性を利用すれば、水は静電気で引き寄せられる】
アクリル棒を毛糸で擦ってから水道水から出ている水に近づけると水の経路が棒に引きつけられて変わる。アクリル棒が負に帯電しているからなのだ。
43.【電子の発見者トムソンと原子核の発見者ラザフォード】
真空ガラス管の中に陰極線ができ、しかも陰極線がプラスの電極の方に曲がるのをみつけたのがトムソンである。トムソンは原子のプラムプディングモデル(ブドウパン型モデル)を考えた。ラザフォードは1万回に1回の割合で、プラスの電荷を帯びたアルファ粒子が金箔をうまく通過できないことから、正電荷が均一に分布しているプラムプディングモデルはおかしいとして、ラザフォードは正電荷が集まっている箇所としての原子核を発見したのである。だから、電子の発見の方が原子核の発見より早いのだ。
44.【原子の構造関連の用語法】
電子の最内殻が、K殻で、その後L殻、M殻、N殻、O殻と続いていく。K殻は最大2個しか電子が入らない。L殻は最大8個で、M殻は最大18個で、N殻は最大32個で、O殻は最大50個である。「6→10→14→18と、入る最大電子数の増え方が4ずつ大きくなる」という法則が電子殻にはある。マグネシウムは原子番号12で、内側から電子が埋まるから最外殻電子は2個である。この時、マグネシウムのK殻とL殻は閉殻である。最外殻電子は1個から7個の場合、「価電子」とも呼ばれるが、ヘリウムは最外殻電子が2個だけれど、「ヘリウムは2個の価電子を持っている」とは言わない。ヘリウムのK殻は閉殻なのだ。だから「ヘリウムの価電子は0個だ」ということになる。しかし、水素の価電子は普通1個である。価電子の数に注目し、それを縦に揃えて元素を並べた表が元素周期表である。この周期表を1869年に『科学の原理』という本の中で発表したのがメンデレーエフである。
メンデレーエフは14人兄弟の末っ子で両親が早くなくなり結核だったのに首席で高等師範学校を卒業した。メンデレーエフは周期表のアイデアをうたたねしている時に思いつき、その表を封筒の裏に書き留めたという。だからコーヒーカップの後が封筒にはついているらしい。メンデレーエフは周期表の空白部分に入るはずの元素として、ガリウムとゲルマニウムの存在を予測した。その後、1875年にガリウム、1885年にゲルマニウムが実際に発見されたのである。1906年にメンデレーエフはノーベル賞候補となるが1票差で敗れた。その結果1907年に死去してしまう。メンデレーエフの功績をたたえて1955年に原子番号101番の元素はメンデレビウムと名付けられた。ちなみに原子番号 102番の元素はノーベルからノーベリウムと名付けられた。ちなみに、原子番号 96番の元素はキュリーからキュリウムと名付けられた。
46.【地域名由来の元素】
原子番号63番はユウロピウム、原子番号95番はアメリシウム、原子番号113番はニホニウムである。原子番号84番のポロニウムはポーランドから来ている。ニホニウムは日本で人工的に作られた元素である。埼玉県の和光市でニホニウムは作られた。理化学研究所が作ったのである。ニホニウムはどうやって作るかというと、原子番号30番の亜鉛を猛スピード(秒速3万キロ=光速の10パーセント)で原子番号83番のビスマスにぶつけることで核融合を起こすのである。亜鉛の速度が速すぎても遅すぎてもこの核融合は起きない。2018年から理化学研究所は、原子番号23番のバナジウムと原子番号96番のキュリウムを核融合させて未知の119番元素を作る計画に取り組んでいるという。元素は理論上、原子番号172番あたりまでなら存在できると言われている。
47.【放射性元素】
アンリ・ベクレルが研究していた原子番号92番のウランの他にも、原子番号90番のトリウムや、原子番号84番のポロニウムや、原子番号88番のラジウムなどの放射性元素がある。マリー・キュリーはポロニウムとラジウムの発見者である。ラジウムは放射線治療にも使える。1934年にマリー・キュリーは放射線障害で66歳で死亡した。ラジウムの製造方法の特許を取ればマリー・キュリーは莫大な利益を得られたはずだが、それを彼女は放棄した。
48.【池田菊苗(1864-1936)と「うま味」】
池田は「うま味」を発見した化学者である。おでんのダシには「うま味」がある。湯豆腐の昆布だしでうま味成分の抽出を続け、「グルタミン酸ナトリウム」の抽出に成功した。池田はドイツに留学した池田はドイツ人の栄養状態の良さに衝撃を受けた。
49.【カリウムとカルシウムの特殊性】
ヘリウム(原子番号2)とネオン(原子番号10)とアルゴン(原子番号18)は価電子が0個だから閉殻である。ちなみに、同じ希ガスであるクリプトン(原子番号36)もキセノン(原子番号54)もラドン(原子番号86)も最外殻の電子数は8個で、価電子の数は0個の閉殻である。閉殻とは価電子がないということなのである。カリウムとカルシウムはM殻が最大18個まで電子を収容できるのにもかかわらず、N殻に電子が入っている。だから、カリウムの価電子は1個で、カルシウムの価電子は2個になる。これはなぜなのかというと、M殻に8個入って閉殻になっているアルゴンがあまりにも安定なので、M殻に9番目や10番目が入るよりも、N殻に電子が入った方が安定になるのである。
50.【励起:①炎色反応と②ルミノール反応と③ケミカルライトと④ホタルの原理】
エネルギーを余分に与えられたせいで本来あるべき殻から外側の殻に電子の位置がズレてしまっている状態を「励起」と呼ぶ。熱エネルギーによって電子が励起状態になっているのが「炎色反応」である。ルミノール粉末を水酸化ナトリウム水溶液に溶かして過酸化水素水を加え、ここにヘモグロビンの粉末を加えると「ルミノール反応」が起こって青く発光する。なぜこんなことになるかというと、ヘモグロビンがルミノールと過酸化水素水の化学反応を促進しているのである。この化学反応のエネルギーによって電子が励起状態になり、その励起状態は不安定なので、エネルギーを放出する。このエネルギーによって青白く光って見えるのだ。これが「ルミノール反応」である。「ルミノール反応」は血痕を探すために使える。ケミカルライトもホタルも、化学反応による電子の励起で光っている。ホタルはルシフェリンという物質をルシフェラーゼという酵素とともに持っていて、これが酸素と出会うと化学反応を起こすのだ。
51.【アルカリ金属としての第1族】
第1族の水素以外の元素をアルカリ金属という。リチウムやナトリウムやカリウムやルビジウムやセシウムやフランシウムがアルカリ金属である。アルカリ金属のリチウムやナトリウムやカリウムはナイフで切れるくらい柔らかくて、断面が空気に触れると「金属光沢」がすぐになくなってしまうし、水に溶ける。水に溶ける時激しく反応するし、溶液はフェノールフタレイン溶液を加えると赤くなる。だから、アルカリ性水溶液になるのでアルカリ金属と呼ばれる。
52.【第17族:アルカリ金属と反応して塩(えん)を作るハロゲン】
第17族のことをハロゲンと呼び、ハロゲンにはフッ素や塩素や臭素やヨウ素などがある。ハロゲンはギリシア語で「塩(えん)を作るもの」という意味である。第1族と第17族が反応すると塩ができる。ハロゲンの代表格である塩素はどうやったら作れるのか。「さらし粉」と呼ばれる次亜塩素酸カルシウムに塩酸を加えると黄緑の気体が出てくる。この気体は赤バラを白バラにするくらいの漂白作用がある。フッ素や塩素や臭素やヨウ素には、漂白作用と殺菌作用があるのだ。
53.【ランタノイドとアクチノイドはなぜ周期表の外側にあるのか】
ランタノイドは原子番号57番のランタンにそっくりな元素たちという意味で、アクチノイドは原子番号89番のアクチニウムにそっくりな元素たちという意味でよく似ているから欄外にまとめてしまっているのである。アクチノイドの中でも、原子番号92番のウランまでが自然界に存在していて、それ以降は人工的に合成したものである。
54.【遷移元素と典型元素を区別せよ】
3族から12族は横に隣り合っているのに性質がよく似ていて、縦に並ぶものが似ていて横は似ていない典型元素とは全然違っている。なぜこうなるのかというと、遷移元素では、原子番号が増える時に電子が最外殻には入らずにそのひとつ内側に入るせいで最外殻電子の数が変化しないからなのである。原子番号が増えても、最外殻電子は変化せずに2個のままだったりすることが多いというわけなのである。
55.【イオンとは何か】
電子をやり取りして電荷を帯びた原子をイオンという。「Mg²⁺」や「S²⁻」を「単原子イオン」と呼び、「NH₄⁺」や「SO₄²⁻」は「多原子イオン」という。「Cl⁻」は呼び方が「塩素イオン」ではなく「塩化物イオン」なので注意が必要。同様に、「O²⁻」は「酸化物イオン」だし、「OH⁻」は「水酸化物イオン」である。しかし、多原子イオンになるとこの規則は当てはまらない。「NH₄⁺」は「アンモニウムイオン」だし、「SO₄²⁻」は「硫酸イオン」だし、「CO₃²⁻」は「炭酸イオン」である。「Na⁺」は「ナトリウムイオン」である。
56.【「イオン化エネルギー」の対義語は「電子親和力」である】
陽イオンになるために最外殻電子を取り去るために必要なエネルギーを「イオン化ネルギー」という。同じ周期(=周期表の横軸)で比べると陽子が多いほどイオン化エネルギーは大きくなる。希ガスは安定なのでイオン化するには大変なエネルギーを要求してくるが、アルカリ金属は不安定なのでほとんど要求しない。同じ族で比べると原子番号が大きいほどイオン化エネルギーは小さくなる。例えば、同じアルカリ金属の第1族でみても、リチウムよりカリウムの方がイオン化エネルギーは小さくなる。逆に、原子が電子を受け取って陰イオンになるために原子から放出されるエネルギーを電子親和力という。第17族のハロゲンであるフッ素や塩素は電子親和力が大きく、陰イオンになりやすい。イオン化エネルギーは、「イオンになるときに要求されるエネルギー」で電子親和力は「イオンになるときに放出されるエネルギー」だと覚えよう。
57.【化学結合のひとつがイオン結合:クーロン力による結合】
水は酸素と水素が化学結合してできている。しかし、食塩は、「Na⁺」と「Cl⁻」のイオン結合によってできている。とはいえ、イオン結合も化学結合のひとつだ。化学結合には①イオン結合の他にも、②共有結合や③金属結合などがある。水は共有結合で、食塩はイオン結合なのだ。イオン結合はイオン同士の間に働く静電気力、すなわち「クーロン力」によって陰陽のイオン同士が引き合ってできる結合である。例えば「塩NaCl」を作るには、黄緑色の「塩素Cl₂」の気体の中に「ナトリウムNa」を入れて熱すればいい。すると激しく反応して「塩NaCl」が残るのだ。このような、クーロン力によるイオン結合でできた、塩のような化合物はイオン結晶を作る。例えば、除湿剤や融雪剤に使われている「塩化カルシウムCaCl₂」はイオン結晶である。重曹は「炭酸水素ナトリウムNaHCO₃」のことで、これもイオン結晶である。ちなみに、重曹はクエン酸と混ぜて使うと汚れが落ちやすいとされている。大理石の主成分である「炭酸カルシウムCaCO₃」もイオン結晶である。「酸化アルミニウムAl₂O₃」も、イオン結晶である。
58.【イオン結晶の特徴】
イオン結晶には以下の特徴がある。イオン結晶の特徴①は、「へき開すること(=特定の面で割れやすいこと)」である。例えば、岩塩の採掘でトンカチでカンカンとやると岩塩はパカっと割れている。イオン結晶の特徴②は「硬いが、割れやすいこと(陰陽イオンが交互に規則正しく並んでいる結晶だから一段ずれれば、相互に反発しあってしまうから割れやすい)」、イオン結晶の特徴③は、「融点が高いこと(例えば塩NaClが液体になるための融点は801度)」、イオン結晶の特徴④は「常温では、固体で存在すること」、そして最後にイオン結晶の特徴⑤は「固体の時に電気を通さないが熱して融解させて液体にしたり水溶液にしたりすると、電気を通すようになること」である。塩の結晶は立方体であり、Naの陽イオンとClの陰イオンが交互に綺麗に並んでいる。
59.【純水は電気を通さないが食塩水は電気を通す】
塩水は電気を通すけれども、純水は電気を通す。水溶液にすると電気を通す物質を電解質という。電解質の代表は食塩水である。非電解質の代表はアルコールと砂糖である。水道水は塩素が溶けているので電気を通したりもする。
60.【食塩水に電気を通すとはどういうことなのか:イオン化傾向】
食塩水(NaCI)は、ナトリウムイオン(Na⁺)と塩化物イオン(C⁻)に電離して溶けるが、わずかながら、水中で水素イオン(H⁺)と酸化物イオン(OH⁻)も電離している。陽極は+極なので、CI⁻が引き寄せられ、電子を陽極に渡すことで塩素(Cl₂)が発生するが、塩素は水に溶けやすいため陽極はあまり泡立たない。陰極はー極なので、Na⁺が引き寄せられるが、電子を受け取ったナトリウムNaが析出したりはせず、むしろ水に溶けにくい水素(H₂)が発生する。これにより陰極は泡立つ。では、これはなぜか。なぜかというと、ナトリウムが水素より「イオン化傾向」が大きいからである。ナトリウムはイオンとして溶液中に留まるので水素イオンが押し出されて、この水素イオンが電子を受け取ることで水素H₂となるのである。陰極付近は、残ったナトリウムイオン(Na⁺)と酸化物イオン(OH⁻)から水酸化ナトリウム水溶液になる。これはフェノールフタレイン溶液が陰極付近で赤く染まることから確かめることができる。厳密には、陽極の塩素(=すぐに溶ける)と陰極付近の水酸化ナトリウムとが混ざり、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)になる。こういう一連の操作を「食塩水の電気分解」と呼ぶ。一般に、陰極で還元反応(電子が増える反応)、陽極で酸化反応(電子が減る反応)を起こして化合物を化学分解する方法を「電気分解」という。ただし、酸化銅を加熱して銅を作る時のように、還元によって酸素を奪うことを還元ともいうので注意が必要である。
61.【なぜ電気分解に炭素棒を使うのか】
炭素棒は他の物質と化学反応しにくく、白金よりも安価だからである。
62.【スポーツドリンクからキセノンイオンのエンジンまで使われるイオン】
スポーツドリンクは身体から汗と共に失われたイオンを補給しようとしている。つまり、スポーツドリンクは電解質である。温泉水も電解質である。温泉は皮膚を通してイオンを吸収させ、効能を発揮するという。リチウムイオン電池もイオンを使って充電と放電を繰り返すもので、化学者の吉野彰が開発した。これによりノーベル化学賞を受賞した。小惑星探査機はやぶさのイオンエンジンもキセノンのプラスイオンを噴射して推進力を得ている。
63.【原子と分子を区別せよ】
「空気には酸素が含まれている」という時、それは「O₂」のことを言っている。分子は「物質の性質を示す最も小さなまとまり」のことであってこれは「原子」ではない。
64.【化学式の中で分子式と組成式と電子式と構造式を混同してはならない】
「O₂」「Ne」「He」「Ar」は「分子式」であるが、塩のイオン結合の仕方を示す「NaCl」は「組成式」である。「電子式」は価電子の電子対を黒ポチで表した表現法である。「構造式」は単結合だった一本線で、二重結合は二本線で、三重結合は三本線で表した表現法である。分子結晶は分子式で表すが、共有結合結晶は組成式で表す。
「H₂」は共有結合で2個の電子を共有している。「H₂O」もそうである。酸素は価電子が6個だからネオン原子みたいに価電子が8個だとみなせるためには水素が2個必要だったのである。電子式で描けば水分子には非共有電子対が2組あることがわかる。水分子は酸素と水が共有結合の中でも「単結合」している。「二酸化炭素分子CO₂」は、共有結合の中でも「二重結合」している。「窒素分子N₂」は共有結合の中でも「三重結合」している。
66.【分子の形と匂いの関係】
「アンモニア分子NH₃」は三角錐のような形、「メタン分子CH₄」は正四面体のような形、水分子は折れ線のような形、水素分子と窒素分子と二酸化炭素分子は直線形をしている。匂いがわかるのは分子の形が匂いの受容器に、鍵と鍵穴のようにフィットするからなのである。
67.【電気陰性度:フッ素樹脂加工のフライパン】
電気陰性度とは、「共有結合をしている分子において、それぞれの原子が共有電子対を引き寄せる強さ」のこと。電気陰性度が一番大きくて、共有電子対をめちゃくちゃひきつけるのが、フッ素である。フッ素樹脂加工のフライパンは油をひかなくてもコゲが付着しない。それは、あらかじめフッ素がとても強い力でフライパンの表面の電子を確保しているから、他のものが付着しようがなくなっているからなのだ。
68.【電子レンジは水分子の極性を利用している】
水素分子は電気陰性度が左右で等しいから偏りはない。「塩化水素分子HCl」は、偏りがあって、塩素の方が電気陰性度がとても大きいから、電子対は塩素にとても偏っている。だから塩素は僅かに負の電荷を帯びている。δには微小なという意味があるから、「塩化水素分子HCl」において塩素はδマイナスで、水素はδプラスになる。水分子は折線型であるから極性がキャンセルされなくなり、極性分子となる。二酸化炭素分子は直線型であるから極性が打ち消しあって、無極性分子となる。どういうことかというと、水分子の場合、水素よりも酸素の方が電気陰性度が大きい。それに対して、二酸化炭素分子の場合、炭素よりも酸素の方が電気陰性度が大きい。二酸化炭素分子では、酸素による電子のひっぱりがどちらも外向きで直線上になるから打ち消しあうけれど、水分子は酸素が電子を両側の水素から集めることになるが、折れ線型なので直線上にはならず、力が打ち消し合わない。メタン分子も二酸化炭素分子のように、極性が打ち消しあうから無極性分子である。メタンが正四面体構造だから、それぞれの力の合力がゼロになるのである。三角錐型のアンモニアも水分子のように打ち消し合うことが出来ず極性分子となるわけである。シクロヘキサンは無極性分子である。だから、水は静電気(例えば毛糸でこすったことで帯電したポリ塩化ビニルの棒)で引っ張ることができるけれど、シクロヘキサン(水素と炭素の化合物で分子式はC₆H₁₂)は静電気で引っ張ることができない。25℃の水と25℃のシクロヘキサンを電子レンジで温めると水は温まるけれどシクロヘキサンは温まらない。電子レンジはマイクロ波を照射させて水分子を振動させる仕組みだから、水分子の極性がないと振動しないのだ。また無極性のシクロヘキサンと極性の水分子は混ぜようとしても混ざらない。だから無極性のヨウ素で紫色に着色できるのはシクロヘキサンだけであるし、極性の硫酸銅(Ⅱ)で水色に着色できるのは水だけある。水性ペンが水で落ちるのに、油性ペンが水で落ちないのは、油性ペンのインクに極性がないが、水には極性があるため、両者は相互に混ざらないからである。砂糖はショ糖分子(=45個の原子で構成される分子=C₁₂H₂₂O₁₁)でできているが、ショ糖分子は極性分子だから、同じ極性分子である水に溶けやすいのである。
69.【分子結晶の特徴:無極性分子には静電気的な引力が働いていないのか問題】
極性分子において静電気的な引力により分子が引きつけ合うのはいいとして、無極性分子においても電子がミクロに見ると運動しているせいで瞬間的には電子の偏りが生じてごく弱い極性が生じている。この分子間の引力で成立した結晶が「分子結晶」である。分子結晶の特徴はイオン結晶と比べて融点が低く、昇華しやすい。例えば「メントール」の固体などは極性分子の結晶なのにすぐに昇華する。ドライアイスなどは無極性分子の結晶だからさらにすぐに昇華する。ドライアイスは室温でさえ昇華する。ナフタレン(C₁₀H₈)も氷もヨウ素(I₂)も分子結晶である。メントールは、分子に極性があるから分子間力が大きいが、ドライアイスは分子に極性がないから分子間力が小さいのである。だから、メントールは室温だと固体のままだが、ドライアイスは室温でさえ昇華するのである。メントールもドライアイスも分子結晶ではあるが、極性分子か無極性分子かが異なるのである。
ガラス板は(常温だと)電気を通さない(高温だと通す)が10円玉は電気を通す。金属結晶は自由電子が動き回ることで金属原子同士を結びつける金属結合によってできているから、その自由電子が動くことで電気を通すのである。「自由電子による金属原子同士の結びつき」のことを金属結合と呼ぶ。自由電子が動き回ることで、熱もよく伝えるのである。また、アルミホイルなどに顕著な金属光沢も、自由電子によるものである。さらに多少金属原子たちの位置や配列がズレても自由電子が自由に動き回ることで結合を維持できるのである。だから金属は伸びる。そういうわけで、金属結晶の特徴①は、電気伝導性が大きいこと、金属結晶の特徴②は、熱伝導性が大きいこと、金属結晶の特徴③は、金属光沢があること、金属結晶の特徴④は、延性(引っ張ると伸びること)と展性(押すと広がること)があることである。例えば、金箔は何度も金を叩いて金を1万分の1ミリメートルにまで伸ばすことができる。また送電線ワイヤーは金属を「ダイス」という器具で7倍に伸ばすことで作られている。アルミニウムと銅と鉄だと、銅→アルミニウム→鉄の順で熱伝導性が高い。銀や銅は鉄の5倍熱を伝えやすい。だから、プロの料理人の鍋は鉄製よりは銅製の場合がある。一般家庭では軽いのでアルミニウムの鍋が使われやすい。鉄の融点は1538度なので、融点が高い鉄の鍋は、火力がとても重要な中華鍋で使われている。
71.【結晶は基本的に四種類ある】
結晶は①イオン結晶、②金属結晶、③分子結晶、④共有結合結晶がある。③分子結晶と④共有結合結晶は違うものなので注意が必要。分子結晶の代表はナフタレン(C₁₀H₈)、氷、ヨウ素(I₂)やドライアイスである。共有結合結晶の代表はダイヤモンド、ケイ素の単体、二酸化ケイ素、炭化ケイ素である。どちらも非金属元素で出来ている。有機溶媒ベンゼン(C₆H₆)に溶ける方が分子結晶で、溶けない方が共有結合結晶である。分子結晶は分子式で表すが、共有結合結晶は組成式で表す。一番覚えやすい覚え方としては、分子結晶は(前述した通り)昇華性を持つので融点が低く、共有結合結晶は融点が非常に高い。分子結晶の結合は分子間力(=ファンデルワールス力と水素結合のこと)だが、共有結合結晶の結合は共有結合である。ドライアイスと黒鉛は理解が難しい。二酸化炭素分子CO₂自体は共有結合で出来ているが、それが分子間力で面心立方格子に並んでいるので、ドライアイスは③分子結晶になる。氷もそうで、水分子自体は共有結合で出来ているが、その結晶は分子間力だから③分子結晶である。黒鉛(グラファイト)の場合は、価電子が4つの炭素原子からできる黒鉛のシートそれ自体は共有結合で出来ているのだが、そのシートには価電子を3つしか使わないので残りの1個が運動できるようになっている。そしてこのシートそれぞれがファンデルワールス力でミルフィーユのように重なっているのが黒鉛なのだ(黒鉛が電気を通すのはこれが理由である。ただし、金属結晶の自由電子は3次元方向に移動できるが、黒鉛の電子はそんなに自由ではない)。よって黒鉛はシートだけで見ると、④共有結合結晶ということになる。まとめると、③分子結晶はまず共有結合により分子が出来て、その分子が分子間力によって結晶化すると理解し、それに対して、④共有結合結晶 は、共有結合一本によって生じた結晶だ、と理解しておくといい。構成粒子の観点から見ると、①イオン結晶の構成粒子は①イオンであり(金属元素が陽イオンを提供し、非金属元素の方が陰イオンを提供することでクーロン力によって結合している)、②金属結晶の構成粒子は②金属原子で、③ 分子結晶の構成粒子は③分子で、④共有結合の構成粒子は④非金属原子である。こうやって整理して理解するといい。ダイヤモンドは共有結合の結晶の代表であるが、炭素原子が共有結合だけでつながりピラミッド状の構造模型になる。シート上のグラファイトのようにはならない。ダイヤモンドの融点は4430℃だし、ダイヤモンドカッターに使えるほど硬い。それに対して黒鉛はシートだけで見れば共有結合の結晶だが、鉛筆に使えるほど脆い。ケイ素もダイヤモンドと同じようなピラミッド状の共有結合結晶を作る。シリコンウェハーという半導体の材料に使われている。融点で見てみると、①イオン結晶の融点は高く(塩は801℃)、②金属結晶の融点は色々(鉄は1535℃なのにタングステンは3410℃で水銀はマイナス39℃である)で、③分子結晶は低く(メントールは熱するとすぐに昇華してしまうしドライアイスは室温で昇華する)、④共有結合結晶の融点は非常に高い(ダイヤモンドの融点は4430℃)。
72.【有機化合物(=化合物のひとつ)と、無機物質の違い】
有機化合物は1億種類くらいある。例えば、塩とガラスと乾電池は無機物質で、砂糖とプラスチックとノートは有機化合物である。有機化合物以外のものはなんでも無機物質である。「有機物は炭素をベースとしており、無機物質はそうではない」と理解していいのだが、驚くべきことに、炭素の同素体である黒鉛やダイヤモンド、それから二酸化炭素は無機物質である。塩は塩化ナトリウムからできている無機物質、ガラスは二酸化ケイ素からできている無機物質、乾電池は亜鉛などからできている無機物質、砂糖はサトウキビのショ糖からできている有機化合物、プラスチックは石油からできている有機化合物、ノートはセルロースでできている有機化合物である。空気も水も無機物質である。カイロの中に入っている鉄粉も活性炭も無機物質である。
73.【炭素と二酸化炭素が無機物である理由】
有機物を空気中で燃やすと何が発生するかというと、二酸化炭素と水が発生するのでなければならない。これを化学反応式のように書いてみると「有機物+酸素→二酸化炭素+水」となる。このとき、二酸化炭素は、有機物の中の炭素と空気中の酸素とが結びついてできるのであるが、水のほうは、有機物の中の水素と空気中の酸素とが結びついてできるのである。だから、このような「有機物」であるための条件を満たすためには、「有機物」には「炭素」だけでなく、「水素」も含まれていなければならないことになる。しかし、炭素の単体である黒鉛や、二酸化炭素には、炭素はあっても、水素が含まれていないため、無機物という扱いになるわけなのだ。これが、炭素が無機物である理由である。だから、逆に、「有機物に含まれている原子を2種類答えなさい。」などと言われたら、「炭素と水素」と答えるのが正解となる。
74.【アンモニア発電】
水素は宇宙で一番多くて軽い無機物である。水素を燃焼させるのが水素エンジン車であり、燃料電池車は水素と反応させて燃えた時に発生する電気で動くのが燃料電池車である。アンモニアNH₃も、燃えた時に二酸化炭素を出さない無機物質である。アンモニアを人工的に作るのは難しいと言われていたが、20世紀になってからアンモニアを窒素と水素から人工的に大量製造できるようになった。アンモニアによる発電も二酸化炭素を出さない。「脱炭素社会」とは水素やアンモニアのような無機物を有効に利用しようとする、環境負荷の小さい社会であると言える。
そもそも炭素原子は腕(=不対電子)が4つと多い。だから色々なものと結合できるわけだ。メタンはCH₄は単結合で一番簡単な構造をしている。都市ガスは基本、メタンである。炭素原子が二つの場合は、単結合して余った腕に水素原子がつく時はエタンC₂H₆で、二重結合して余った腕に水素原子がつく時はエチレンC₂H₄で、三重結合して余った腕に水素原子がつく時はアセチレンC₂H₂と呼ばれることになる。例えばエチレンはバナナの成熟に関係する植物ホルモンである。まだ熟れていないバナナにエチレンガスを噴射すると次第に黄色くなる。こういうCとHでできているものたちのことを「炭化水素」という。
76.【高分子化合物のポリエチレン】
エチレン(C₂H₄)は二重結合である。エチレンの二重結合をひとつ切り離して単結合にしてから、それをどんどんつなげて作るのがポリエチレンである。エチレンのことをモノマーと言って、それを数千個とか繋げていく操作を重合と言って、その結果出来上がったものがポリマーである。ポリ袋とかポリタンクとかポリバケツはこうやって作るけれども、炭水化物は天然のポリマーであるし、タンパク質も天然のポリマーである。これを手本にして石油から人工的に作ったポリマーがプラスチックである。プラスチックとは例えば、ナイロンなどの化学繊維である。ヘキサメチレンジアミン(C₆H₁₆N₂を、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)に混ぜ合わせた溶液と、アジピン酸ジクロリド(C₆H₈Cl₂O₂)のヘキサン溶液(C₆H₁₄)を用意して、ヘキサメチレンジアミンと水酸化ナトリウム水溶液の入ったビーカーに、アジピン酸ジクロリドのヘキサン溶液を静かに加えていくと、溶液の境界面に白っぽい膜ができ、これがナイロンである。ピンセットで白い膜を摘み上げると境界面でどんどんポリマーが発生して全然終わらない。ナイロンは絹を再現しようとして作られた人工繊維である。
77.【プラスチックの下位分類】
熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の区別は知っておこう。熱可塑性樹脂はペットボトルなどである。ペットとはポリエチレンテレフタラートの略称である。ペットボトルは回収すればシャツやフリースの原料としてもう一度使えるわけである。生分解性プラスチックなら回収されなくても微生物に分解してもらうことができる。熱硬化性樹脂は食器や電気製品に使われているが、再利用が難しい。紙オムツに使われているのは「高吸水性樹脂」である。ネイルサロンでネイルに使われているのは、専用の紫外線を当てると固まる「感光性樹脂」である。
78.【アンモニウムイオンと配位結合】
アンモニア(NH₃)がアンモニウムイオン(NH₄⁺)になるときのように、非共有電子対を水素が一方的に共有させてもらって結合することを配位結合という。共有結合は双方向の共有だが、配位結合は一方的である。配位結合によってできるイオンが「錯イオン」である。例えば、非共有電子対を持つアンモニアを配位子とするテトラアンミン銅(Ⅱ)イオンは、「錯イオン」である。錯イオンには金属イオンが多く、金属イオンは基本陽イオンである。
79.【なぜ血は赤いのか】
血液が赤血球を含み、赤血球がヘモグロビンを含むからである。ヘモグロビンは酸素を鉄(Ⅱ)イオンの配位結合によって運んでいる。
80.【化学反応式の書き方】
「2NaCl → 2Na + Cl₂」とか「2H₂ + O₂ → 2H₂O」とか「Mg + 2HCl → MgCl₂ + H₂」とか「CH₄ + 2O₂ → CO₂ + 2H₂O」とか「2CO + O₂ → 2CO₂」みたいな式のことを化学反応式という。この式は何を表現しているのかというと、比を表現している。しかも粒子の比を表現している。要するに、「化学反応式の係数の比は物質量(=粒子の個数)の比を表している」のだ(ただし、「2CO + O₂ → 2CO₂」みたいな気体だけの化学反応式の場合には、それぞれの分子についている係数の比は気体の体積の比になっているとも言ってよい)。化学反応式の係数の比は質量の比を表しているのではないことに注意しよう(例えば、「2CO + O₂ → 2CO₂」で考えるよよくわかる。2モルの一酸化炭素分子と1モルの酸素分子が反応して2モルの二酸化炭素ができたとして、この時、2モルの一酸化炭素というのはモル質量が28だから56gで、同様に計算すると1モルの酸素は32gで、二酸化炭素は88gとなる。で、この質量比は「7対4対11」となって、係数比の「2対1対2」とは一致していないことがわかる。でも、よく見れば気づくことだが、「56g+32g=88g」なのだから、「反応物と生成物の間に質量保存則が成り立っている」ことがわかる。ラボアジエが発見した「質量保存の法則」はこれである。)。だから、粒子の個数を表現している「物質量」の概念を理解しておけばそれほど難しくない。化学反応を式で表現できること自体がすごいことなのである。化学反応する前の物質のことを反応物という。化学反応した後の物質を生成物という。化学反応の前後で原子の種類と数は変化しないことが知られている。化学反応式を作る時には、含まれている原子の種類が最も多い分子の係数を1にして考えると良い。「2CH₄ + 4O₂ → 2CO₂ + 4H₂O」みたいに、最も簡単な整数比「1対2対1対2」にまだできるものは間違っている化学反応式である。例えば、酸化銀の熱分解の化学反応式「2Ag₂O → 4Ag +O₂」と書けばよい。反応の前後に変化しなかった溶媒や「酸化マンガン(Ⅳ)」などの触媒は化学反応式は書かない。例えば、「HCl + NaOH → NaCl + H₂O」という全ての係数が1になっている化学反応式の場合、反応の前後で変化していない溶媒の水は変化していないから省略してよい。「2H₂O₂ → O₂ + 2H₂O」において、酸化マンガン(Ⅳ)である「MnO₂」は反応式に書き加える必要はない。酸化マンガン(Ⅳ)は過酸化水素水の酸素と水への分解を促進しているだけだからだ。ひとつ具体的にやってみよう。例えば「CaCO₃ + 2HCl → CaCl₂ + CO₂ + H₂O」という化学反応式について、炭酸カルシウム1.00gと塩酸の化学反応で二酸化炭素は何グラムできるのか考えたい。ここでCaCO₃とCO₂の係数は同じだから、CaCO₃とCO₂の物質量は等しくなることがわかる。CaCO₃の式量は「40+12+16×3=100」だから、1.00gのCaCO₃の物質量(=粒子の数)は0.0100mol(←有効数字が3桁なので、0.01molと書いてはならない)であることがわかり、だとすると発生したCO₂の物質量も0.0100molであることがわかる。二酸化炭素の分子量は44だから、モル質量は44g/molということになり、0.0100molの二酸化炭素というのは、0.44g(←有効数字は2桁と3桁で掛け算したら2桁の方に合わせるので、答えを0.440gと答えてはいけない)であると分かる。
81.【イオン反応式の書き方】
イオンを含む化学反応式がイオン反応式である。例えば、硫酸銅(Ⅱ)水溶液という青い液体の中に亜鉛を入れると青色はだんだん薄くなっていき、亜鉛の表面に赤い色の物体が付着してきて、逆に亜鉛は硫酸の中に溶け出してしまう。ここでは何が起こっているのかを考えてみよう。水溶液中で硫酸銅は2価の陽イオンである銅イオンと硫酸イオンに電離していてそこに亜鉛が入ってきたわけである。すると銅は亜鉛の表面に析出し、亜鉛は亜鉛イオンに変わって水溶液中に電離したというわけである。「Cu²⁺ + SO₄²⁻+ Zn → Cu + SO₄²⁻+ Zn²⁺」という化学反応式は過剰である。反応の前後で変化しなかったものは省略していいのだ。「Cu²⁺ + Zn → Cu + Zn²⁺」としたらイオン反応式の完成である。イオン反応式は反応の前後で電荷の総和が等しくなっていないといけないのだ。
82.【酸と塩基の具体例】
塩基の中でも水に溶けるもののことをアルカリという。その水溶液が示す性質がアルカリ性である。なので、酸性の反対はアルカリ性だというのはあまり正確ではない。酸性の反対は塩基性である。紫キャベツに含まれるアントシアニンという天然色素は、酸性になると赤くなり、塩基性になると緑に変色する性質がある。レモン果汁やお酢は酸性で、石鹸水は塩基性である。食塩水は中性である。酸性を示す性質を持つものを酸といい、塩基性を示すものを塩基という。つまり、あくまでも酸や塩基は酸性や塩基性を示す物質のことであるから注意が必要である。酸の代表は塩酸や酢酸や硫酸で、塩基の代表は水酸化ナトリウムと水酸化カルシウム水溶液やアンモニア水溶液である。酸性の正体は水素イオン(H⁺)で、塩基性の正体は水酸化物イオン(OH⁻)であることが知られている。酸は青色リトマス試験紙を赤色に変え、ブロモチモールブルー(BTB)溶液を黄色に変え、マグネシウムなどと反応して水素を発生するものだという特徴を覚えておくといい。
83.【指示薬とは何か】
BTB溶液は純粋では緑色だが、そこに塩酸を入れると黄色になり、そこに水酸化ナトリウムを入れると青色に変わる。フェノールフタレイン溶液は無色で、塩酸を入れても無反応だが、水酸化ナトリウムを入れると赤く染まる。塩酸にマグネシウムを入れると激しく反応して水素を出す。手につけると「ぬるぬる」するものは塩基性である。以下のものは特に、「pH指示薬」と呼ばれている。①メチルオレンジ(MO)と②フェノールフタレイン(PP)と③ブロモチモールブルー(BTB)は覚えておこう。メチルオレンジはpH3.1からpH4.4で赤くなる変色域を持っている。フェノールフタレインpH8.0からpH9.8で赤くなる変色域を持っている。ブロモチモールブルーは、中性だけ緑色で、pH6.0より低いと黄色で、pH7.6より高いと青色になるから、変色域はpH6.0からpH7.6である。これらの指示薬を混合させて、つまり具体的には、メチルオレンジ(MO)とフェノールフタレイン(PP)とブロモチモールブルー(BTB)を1対1対5の割合で混ぜてろ紙に染み込ませると、「万能pH試験紙」が作れる。
84.【アレニウスは、あくまでも水に溶けることにこだわった人物である:アレニウスの定義】
アレニウスは、「酸とは水に溶けて水素イオン(H⁺)を生じる物質のことであり、塩基とは水に溶けて水酸化物イオン(OH⁻)を生じる物質のことである」と定義した。例えば、純度100%の酢酸は液体であるが、ここにマグネシウムを入れてもほとんど反応しない。これは、純度100%の酢酸(CH₃COOH)の中では酢酸は電離できないからである。電離できないということは「CH₃COO⁻」と「H⁺」に分かれられないということだから、「H⁺」がないので酸性の性質がなくなってしまうということなのである。同様に、純度100%の酢酸は電気を通さないが、水を入れると電気を通すようになる。酢酸が電離してイオンが生じているから電気を通せるようになったのである。アレニウスの定義は狭義の酸と塩基の定義であり、広義には水に溶けないものも酸や塩基と呼ぶ場合がある。例えば、無色透明の塩化水素の気体と無色透明のアンモニアの気体をぶつけると、反応して白い煙となって塩化アンモニウムの微小な固体が出てくるのだが、この時、水溶液は全くないのに酸と塩基の反応が起こっていることがわかる。「HCl + NH₃ → NH₄Cl」という反応である。アンモニアはここで「OH⁻」を生じさせたわけではないが、塩化水素から「H⁺」を奪ってきて塩化水素の酸性をキャンセルしているので、アンモニアはここでは水溶液に溶けていないけれども塩基として働いているということになる。
アンモニアは分子が「NH₃」なので、「OH⁻」を含んでいないのに塩基性の性質を示すのは変である。これはどういう事情かというと、アンモニアは水に溶けると一部が「NH₄⁺」となって水から水素を奪うことで水酸化物イオンを発生させるのである。だからアンモニアは、れっきとした塩基扱いなのである。これは「NH₃ + H₂O ⇄ NH₄⁺ + OH⁻」と表現される。この化学反応式を見ればわかる通り、「アンモニアは水と反応して水酸化物イオンをつくるから、塩基」なのである。
86.【ブレンステッドとローリーの酸と塩基の定義】
ブレンステッドとローリーは、水溶液にも限定されず、しかも水酸化物イオンが生じていなくても酸と塩基だといえる定義を考えた。すなわち、「酸とは水素イオン(H⁺)を与える分子またはイオンのことであり、塩基とは水素イオン(H⁺)を受け取る分子またはイオンのことである」と定義した。
87.【酸には酸素が入っているというラボアジエの酸素説が日本にまず輸入されてしまった問題】
そもそも「塩酸」には酸素が入っていない。酸素が入っている水酸化物は酸ではなく塩基である。なぜこんなネーミングなのだろうか。①18世紀にラボアジエが「酸には酸素が入っている」という「酸の正体は酸素説」を提唱し、それが江戸時代の日本に輸入された時の翻訳にも反映されてしまっているのだ。酸の素(もと)だから、「酸素」と名付けられたのである。②その後、水素が入っているものが酸であるという「酸の正体は水素説」が登場し、③その後アレニウスが「酸の正体は水中で電離した水素イオン説」を提唱した。④さらに、水以外の有機溶媒や、液体アンモニアの中でも酸だとか塩基だとかを言えるように、ブレンステッドとローリーがアレニウスの定義を拡張したのである。
88.【強酸と弱酸の区別の根拠は電離度であり、電離度が低いとは水素を好むということである】
お酢は食べても大丈夫だけど、塩酸は食べたら大変なことになる。酸には強度があるのだ。酸の強度は何で決まるのかというと、酸の正体は、「水素イオン(H⁺)」なので、水素イオン(H⁺)の濃度で決まる。しかし、同じモル濃度の酢酸溶液と塩酸溶液であっても、そこにマグネシウムを入れると全然塩酸の方が反応速度が速くなる。これはなぜなのだろうか。水溶液中での電離の様子を調べると次のようになっているのだ。塩酸の場合は「HCL→H⁺ +Cl⁻」で、酢酸の場合は「CH₃COOH ⇄ H⁺ + CH₃COO⁻」となっている。すると、矢印が問題なのだ。塩酸は一方通行だから、たとえ酢酸と同じモル濃度でも水溶液中で全ての水素イオンが電離していることになるのだが、酢酸は塩酸と同じモル濃度でも、反応がどちらむきにも進んでいることを示している。だから、酢酸は水溶液中では分子に戻ってしまうものもあるので、水素イオン(H⁺)濃度だけをみると、1mol/Lの酢酸溶液よりも1mol/Lの塩酸溶液の方が大きくなるのだ。これが強酸と弱酸の区別である。塩酸は強酸であるが、酢酸は弱酸である。弱酸は水溶液中で一部しか電離せず、分子のままの酢酸分子もあるというわけである。実は同じことが強塩基と弱塩基にも言える。強塩基の代表は水酸化ナトリウムで、弱塩基の代表はアンモニアである。アンモニアの電離は「NH₃ + H₂O ⇄ NH₄⁺ + OH⁻」のように双方向的だが、水酸化ナトリウムの電離は「NaOH → Na⁺ + OH⁻」のように一方向的になっている。同じモル濃度だと、溶けている物質の粒子の数も同じはずなのであるが、たとえ同じモル濃度でも、強酸は電気電動性が高いが、弱酸は電気伝導性が低い。これもやはり、たとえ同じ物質量(=粒子の数)が溶けているとしても、その内で、イオンになって電離しているものが弱酸の方が少ないのである(=まだ分子のままでいるものもたくさんいるのである)。弱酸水溶液中に電子を運べるイオンが少ししかなければ、電気伝導性が高くならないのも納得がいくだろう。「溶かした酸の粒子の数のうち、どれくらいが電離しているか」を「電離度アルファ=電離した酸または塩基の物質量(mol)/溶解した酸または塩基の物質量(mol)」を使って表現する。強酸の電離度はほぼ1だが、弱酸の電離度は1よりもかなり小さい値になる。酸と塩基の強弱は電離度で決まるのである。
89.【①強酸、②弱酸、③強塩基、④弱塩基の代表を覚えておこう】
①強酸の代表は、塩酸と硝酸と硫酸である。②弱酸の代表は、酢酸と硫化水素とシュウ酸と炭酸とリン酸とクエン酸である。③強塩基の代表は水酸化ナトリウムと水酸化カリウムと水酸化カルシウムと水酸化バリウムである。④弱塩基の代表は、アンモニアと水酸化銅(Ⅱ)と水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムである。ここで注意点を書いておく。例えばクエン酸は3価の酸(=1分子から放出しうる水素イオンの数が3つである酸)であるが強酸ではなく弱酸である。それに対して塩酸は1価の酸で硫酸は2価の酸であるが、強酸である。だから、酸の強弱はあくまでも「電離度アルファ」で決まるのであって「価数」で決まるわけではないのだ。酸の価数は酸の強弱と無関係なのである。水酸化アルミニウムは、3価の塩基であるが、電離度は低いので、弱塩基である。強酸といえば塩酸、弱酸といえば酢酸、強塩基といえば水酸化ナトリウム、弱塩基といえばアンモニアだと覚えておけば十分である。
90.【ペーハーまたはピーエイチ(水素イオン指数)は「水素イオン濃度」で決まる】
pHは水素イオン指数と言って、7が中性で、0に近づけば酸性で、14に近づけば塩基性になる。pHが1減るごとに水素イオン濃度は10倍に増える。ところで、純水は電気を通さないのだが、実は僅かに電離してはいる。それを「H₂O ⇄ H⁺ + OH⁻」と表現する。水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度が等しい時にこれを中性という。水素イオン濃度は[H⁺]と表現する。これが25℃の純水中では「[H⁺]=[OH⁻]=1.0×10⁻⁷mol/L(25℃)」となって釣り合っている。ここに塩酸を加えるとどうなるかというと、塩酸は強酸だから水中でほぼ全部電離して行くので、溶液中の水素イオン濃度がめっちゃ増える。そして、純水中にもともと「[OH⁻]=1.0×10⁻⁷mol/L」分だけ含まれていた水酸化物イオンたちは、この増えた水素イオンと結合してある程度は水になってしまう。それゆえ[OH⁻]は減少するのだ。そして、水素イオン濃度が増えるのだ。これが酸性になるということなのである。逆に、ここに水酸化ナトリウムを加えていたらどうなるかというと、水酸化ナトリウムは強塩基だから水中でほぼ全部電離していくので、溶液中に水酸化物イオンがめっちゃ増える。そして、純水中にもともと「[H⁺]=1.0×10⁻⁷mol/L」分だけ含まれていた水素イオンは、この水酸化物イオンと結合してある程度は水になってしまうから、水素イオン濃度が減るのだ。これが塩基性になるということなのである。だとすると、[H⁺]と[OH⁻]を掛け算した値はいつも一定の「1.0×10⁻¹⁴(mol/L)²」という値になる(=[H⁺]と[OH⁻]は反比例する)というわけだ。水溶液中では、「水素イオン濃度が増えれば水酸化物イオン濃度が減り、水酸化物イオン濃度が増えれば水素イオン濃度が減る」、というふうに覚えておこう。例えばコーヒーのpHは5で弱酸性だし、レモン汁や梅干しのpHは2だし、レモンティーやヨーグルトのpHは4だし、石鹸水のpHは9で弱塩基性である。こんにゃくはpHが10である。人間の涙はpHが8.2で弱塩基性である。人間の血液のpHは7.4で弱塩基性っぽい中性である。人間の唾液のpHは6.4である。人間の汗のpHは5.4で、人間の胃液はpHが1.5である。日本の雨はpH5.7くらいであり、これより下がると酸性雨と呼ばれる。海はもともと塩基性なのだが、近年、大気中の二酸化炭素が増え続けていることの影響で、どんどん酸性化しているという(=海に溶け込む二酸化炭素が増えることで、弱塩基性のはずの海が少しずつ中性に近づいているということ)。また、日本は雨が多いので塩基が流れて酸性になってしまいやすい。しかも、雨自体が大気中の二酸化炭素が溶けているため、弱酸性である。だから、日本の弱酸性の畑の土に、石灰を加えると中和することができる。作物が好むpHは作物によって違うので農家は、混ぜる石灰の量を調節しているのである。しかし、例えば、ブルーベリーは強い酸性の土(pH4.5からpH6.0)を好むので、むしろ石灰を加えない方がいい。
91.【最重要項目:中和点に達した溶液が中性になるとは限らないし、正塩が溶けていると中性になるとも限らない】
酸と塩基が反応してできるものは、酸の正体が水素イオンで、塩基の正体が水酸化物イオンだから、「水である」といいたくなる。しかし答えは「水と塩(えん)である」と言うべきだ。実際、酸が塩基の、塩基が酸の性質を失わせてしまうのは、水ができるからである。しかし、酸の水素イオンと塩基の水酸化物イオンが過不足なく反応した地点を中和点というが、中和点に達した溶液が中性になるとは限らない。中和反応とは酸と塩基が反応して水と塩(えん)ができる化学反応のことである(ただし、アレニウスの定義が拡張されるべき根拠となった事実だが、酸と塩基の反が水なしで起こることがある。例えば酸である塩化水素の気体と塩基であるアンモニアの気体を混ぜると固体の塩化アンモニウムという塩(えん)だけが発生するが、ここに水は生じない)。そういうわけで、中和点に達すると塩(えん)が生じる。その塩には正塩や酸性塩や塩基性塩があるのである。しかし、ここからさらにややこしくなる。正塩や酸性塩や塩基性塩という塩(えん)の種類とその塩(えん)を溶かした時の水溶液が何性になるのかは必ずしも一致しないのである。例えば、コニカルビーカーにあるモル濃度の酢酸を入れて、その上にあるビュレットにも全く同じモル濃度の水酸化ナトリウムを入れて、水酸化ナトリウムを中和点まで、つまりコニカルビーカーの中の酢酸と、上から落ちてきた水酸化ナトリウム溶液とが、全く同じ体積になるまで滴下することで中和反応である「CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O」を起こしたとしよう。例えば、酢酸が0.1mol/Lで100mLだとしたら、水酸化ナトリウムも0.1mol/Lにして、水酸化ナトリウムを100mLぶんだけ垂らしていくのである。こうして中和点に達した溶液には正塩である酢酸ナトリウムが0.1molぶんだけ溶けているはずだが、ここにBTB溶液を垂らすと、なんと青く染まるのである。つまり、中和点に達すると中性になるどころか、塩基性になっていることがわかる。このことから、中和点に達した溶液が中性になるとは限らないし、正塩が溶けている溶液が中性になるとも限らないということがわかる。なぜこうなるのか。そもそも酢酸は1価の酸である。水酸化ナトリウムは1価の塩基である。価数とは1分子あたりから生じうる水素イオンまたは水酸化物イオンの数のことである。だから、1価の酸と1価の塩基を中和させれば正塩ができるのだ。しかし、酢酸とは弱酸で、水酸化ナトリウムは強塩基である。中和反応により生成した酢酸ナトリウムCH₃COONaの溶液では「塩(えん)の加水分解」が起きているのである。つまり、酢酸ナトリウムは酢酸イオンとナトリウムイオンとに溶液中で電離しており、溶媒の水も「H₂O ⇄ H⁺ + OH⁻」として僅かに電離しているから、その酢酸イオンが水の水素イオンを奪ってきて酢酸分子CH₃COOHになってしまうのである。これにより、水酸化物イオンOH⁻が残留することで、酢酸ナトリウム溶液は弱塩基性を示していたというわけである。これが塩(えん)の加水分解であり、塩(えん)の加水分解が起きる理由は、酢酸が弱酸であるからである。弱酸とは電離度が小さい酸ということで、電離度が小さいというのは水素イオンを手放しにくいという意味である。それゆえ、酢酸イオンは水素イオンを再回収して酢酸に戻ろうとしてしまうのだ。正塩の水溶液が酸性になることもあるので注意が必要。
92.【中和とはどういう状況か】
0.1mol/Lのモル濃度の酸である塩酸の水溶液50mLと0.1mol/Lのモル濃度の塩基である水酸化ナトリウムの水溶液50mLがあり、これらを中和させていく。この時の化学反応式は「HCl + NaOH → NaCl + H₂O」となり、この時のイオン反応式は「H⁺ + OH⁻ → H₂O」となる。イオン反応式では、「Na⁺」や「Cl⁻」は反応の前後で変化しないので、書かれずに省略されるのである。化学反応式の係数の比は物質量の比を意味する。与えられた濃度と体積から物質量を求めると、塩酸は「0.1mol/L × 0.050L = 0.005mol」となるし、水酸化ナトリウムの物質量も0.005molとなる。それゆえ生じた塩も0.005molとなる。この時中和点を見つけるのは非常にシンプルで、塩酸を水酸化ナトリウムの水溶液にそのままいれればそれで終わりである。0.005molというのは粒子の数のことであって、水素イオンの数ではないのだが、塩酸の場合は1価の酸なので、たまたま水素イオンの数も0.005molになっているからだ。
93.【中和反応の量的関係を方程式にする】
0.1mol/Lのモル濃度の酸である硫酸の水溶液50mLと0.1mol/Lのモル濃度の塩基である水酸化ナトリウムの水溶液50mLがあり、これらを中和させていく。この時の化学反応式は「H₂SO₄ + 2NaOH → Na₂SO₄ + 2H₂O」となる。塩酸は1価の酸であるが、硫酸は2価の酸である。2価の硫酸は、電離した時に水素イオンの数が1価の塩酸の2倍になる。それゆえ、ちょうど過不足なく中和させるためには、硫酸をそのまま水酸化ナトリウムの水溶液に入れればいいなんてことにはならない。それだとむしろ水素イオンが余って、酸性溶液ができてしまう。ここで、酸の体積と濃度と価数が全てわかっていれば、水素イオンの数がもとまるんだから、実際にやってみよう。例えば、「0.10mol/Lのモル濃度の塩基である水酸化ナトリウムの水溶液50mLを過不足なく中和させるために、0.10mol/Lのモル濃度の酸である硫酸の水溶液はどのくらいの体積が必要か」と問われたらどうしたらいいだろう。以下のような方程式、すなわち、「左辺が水素イオンの物質量を表し、右辺が水酸化物イオンの物質量を表すような方程式」を解けば良い。すなわち、「硫酸の価数2 × 0.10mol/L× XL = 水酸化ナトリウムの価数1 × 0.10mol/L× 0.050L」という式を変形して「2X = 0.050L」となって、「X=0.025L」となるというわけだ。この方程式を使えば、どんな物質が溶けている水溶液でも、どのくらいあれば中和させられるのかを瞬時に計算して求めることができる。しかもこの方程式は弱酸に対しても有効である。弱酸は電離度が小さいのだから、塩基と混ざるとあっという間に水素イオンを消費してしまうように感じるかもしれないがそんなことは全然なくて、確かに電離度は小さいけれど、なくなれば次から次へとどんどん供給されていくので、結局この方程式が有効に機能するのだ。塩酸と酢酸は、強酸と弱酸という違いはあるが、それは水素イオンをすぐに手放すか、それとも抵抗しつつ手放すかという違いでしかなく、1分子が1個しか水素を放出できないということ自体は塩酸と酢酸で同じなのである。この方程式を「acV(酸の価数×酸の水溶液の濃度×酸の水溶液の体積)=bc’V’(塩基の価数×塩基の水溶液の濃度×塩基の水溶液の体積)」と表現することがある。
94.【中和滴定によって、もう片方の溶液の未知の濃度を調べられる】
「ある水溶液中の酸素イオンの物質量と水酸化物イオンの物質量を過不足なく同じにする操作」のことを「中和」という。そして、「中和」を使って溶液の未知の濃度を調べることができるのが中和滴定である。例えば、あるお酢の濃度を調べたいとする。そのお酢を10倍に希釈したものから10.0mLだけホールピペットを使ってサンプルとして取り出す。そしてそのサンプルを、濃度が既知で、0.100mol/Lとわかっている水酸化ナトリウム水溶液をビュレットから滴下することで、中和してみるのだ。それで、中和点までに必要だった水酸化ナトリウムの体積がわかれば、サンプルの濃度が「中和反応の量的関係の式」によって計算でわかり、サンプルの濃度がわかれば、サンプルを取り出す前のお酢の濃度がその10倍だとわかる、というのが中和滴定の原理である。また、水酸化ナトリウム水溶液をビュレットから滴下しつつ、中和点に達したということがどうやってわかるのかというと、フェノールフタレイン溶液をあらかじめサンプルの入ったコニカルビーカーに垂らしておけば、落ちてきた水酸化ナトリウムに反応して発色した赤色が、消えなくなったタイミングが中和点だと、わかるのである。というのも、酢酸と水酸化ナトリウムの中和滴定の場合、中和してできた酢酸ナトリウムは正塩だけれども加水分解が起きているので、弱塩基性だからである。「CH₃COOH + NaOH → CH₃COONa + H₂O」という化学反応式を見ればわかる通り、酢酸がちょうどなくなって酢酸ナトリウム水溶液になったとき、酢酸ナトリウムの加水分解が起きて、酢酸ナトリウムは水素を奪ってきて水中に水酸化物イオンが残ることで水溶液は全体として弱塩基性になるのだ。それで、フェノールフタレインの赤色が消えなくなったところがピッタリ中和点だと言えるのである。もし、実際に中和滴定をやってみたら、中和点までに必要だった水酸化ナトリウムの体積が例えば7.43mLだったとすると、「酢酸の価数1 × Xmol/L× 0.0100L = 水酸化ナトリウムの価数1 × 0.100mol/L× 0.00743L」という式が立つ。これを計算すると「X=0.0743」で、それゆえに未知のお酢の濃度はその10倍の0.743mol/Lだと求まるというわけである。
95.【中和滴定で使う指示薬を変えなければならない場面】
滴定曲線を見たときにpHジャンプのところにちょうど指示薬の変色域がきていない場合には、中和滴定で使う指示薬を変えなければならない。例えば、強酸と弱塩基、つまり塩酸とアンモニア水を中和滴定する時には、指示薬はフェノールフタレインではなくメチルオレンジを使わないといけない。弱酸と弱塩基のときには、pHジャンプがほとんど起きないため、どんな指示薬でも中和点を知ることはできない。つまり、弱酸と弱塩基のときには中和滴定がそもそも難しいのである。
96.【共洗い】
これから使う溶液で器具の中を何回か洗うことを「共洗い」という。
97.【塩化水素の水溶液(=塩酸)を熱すると蒸発するので何も残らない】
あまり意識されていないことだが、塩酸を熱して蒸発させると、塩化水素が、気体の塩化水素として蒸発していってしまって何も残らない。それに対して、水酸化ナトリウムは熱すると水酸化ナトリウムの結晶が残る。
98.【塩(えん)を溶かすと液性はどうなるのか問題:「正塩だから中性だ」はおかしい】
強酸といえば①塩酸、弱酸といえば②酢酸、強塩基といえば③水酸化ナトリウム、弱塩基といえば④アンモニアだ。①と③を混ぜると塩(えん)として食塩ができ、食塩は正塩で水溶液は中性である。①と④を混ぜると塩(えん)として塩化アンモニウムができ、塩化アンモニウムは正塩であるが水溶液は酸性である。②と③を混ぜると塩(えん)として酢酸ナトリウムができ、酢酸ナトリウムは正塩であるが水溶液は塩基性である。②と④を混ぜると塩(えん)として 酢酸アンモニウムCH₃COONH₄ができ、酢酸アンモニウムは正塩であるし、水溶液は中性になる。
99.【典型的な塩(えん)の分類】
①塩化ナトリウムNaClと、②塩化アンモニウムNH₄Clと、③酢酸ナトリウムCH₃COONaは正塩である。④重曹または炭酸水素ナトリウムNaHCO₃と、⑤硫酸水素ナトリウムNaHSO₄は酸性塩である。⑥塩化水酸化カルシウムCaCl(OH)と、⑦塩化水酸化マグネシウムMgCl(OH)は塩基性塩である。また、中和点でできる溶液が中性とは限らないし、塩(えん)の種類によってその塩の水溶液の液性が決まるのではないから注意するべき。
100.【「遊離」とは何か:弱酸塩と強酸の反応がその典型】
弱酸の塩である炭酸ナトリウムNa₂CO₃と強酸の塩酸が反応すると激しく発泡して気体の二酸化炭素が発生する。化学反応式は「Na₂CO₃ + 2HCl → 2NaCl + CO₂ + H₂O」となる。「弱酸塩と強酸が反応すると、強酸の塩である食塩NaClが発生する過程で、弱酸の二酸化炭素であるCO₂ が追い出されること」などを「弱酸の遊離」という。より一般化していえば、「弱酸の遊離」とは「強い酸が弱い酸からイオンを奪って塩になろうとする」ことである。逆に、「弱塩基の遊離」も存在する。例えば、「弱塩基の塩」である塩化アンモニウムと強塩基である水酸化ナトリウムを混ぜて熱を与えてやると、強塩基の塩であるNaClが発生する過程で、弱塩基の気体であるアンモニアが発生する。これが弱塩基の遊離である。化学反応式は「NH₄Cl + NaOH → NaCl + NH₃ + H₂O」となる。
101.【中和反応は例えばどこで利用されているのか】
①塩基性の胃薬も、②色が消えるタイプのスティックのり(=塩基性では青いが、空気中の二酸化炭素を吸うことで中和されて酸性化されることで無色になる指示薬を混ぜたのり)も、③発泡入浴剤(=弱酸の塩である炭酸水素ナトリウムと強酸であるフマル酸が反応して「弱酸である二酸化炭素の遊離」が起きるから泡が出る入浴剤で、お湯に溶けた二酸化炭素は皮膚から吸収されて血管を広げて血流量を増やすとされる)も、中和反応を利用している。また例えば、トイレの嫌な匂いの原因はアンモニアである。だから、④無香料の消臭剤はアンモニアを中和させているのだ。例えば、クエン酸の水溶液はアンモニアを中和することができる。アンモニアは水と反応して水酸化物イオンを作るから「NH₃ + H₂O ⇄NH₄⁺ + OH⁻」と表現できて、塩基である。塩基であるアンモニアと酸であるクエン酸を中和反応させると、「3NH₃ + C₆H₈O₇ + 3H₂O → C₆H₅O₇(NH₄)₃ + 3H₂O」となって、匂いのするアンモニアがクエン酸三アンモニウムC₆H₅O₇(NH₄)₃ という匂いのない物質に変化していることがわかる。猫用のトイレに敷かれている猫砂にはクエン酸やカテキンという酸性物質が含まれており、これがアンモニアと中和反応を起こしているのである。⑤みかんの缶詰を作るときにみかんの薄皮を溶かすのは塩酸と水酸化ナトリウムであり、両方で溶かせば最終的には中和できるのである。まず塩酸で薄皮を溶かし、次に水酸化ナトリウムで薄皮をさらに溶かせば中和されるから最終的には安全というわけだ。⑥ラムネ菓子も中和反応で、唾液にラムネ菓子が溶けると、成分のクエン酸が成分の重曹で中和され、そのときに二酸化炭素が発生するからシュワシュワするのである。
102.【「靴の消臭剤」は「猫用トイレ」とは原理がちょうど逆】
靴の匂いの原因物質は「イソ吉草酸」であるから、「酸」である。だから、靴の消臭剤には塩基が入っている。
103.【草津温泉は酸性である】
草津温泉では強酸性のお湯が沸いている。だから湯畑の温泉のpHは2.3で強い酸性なのである。だから、近くの川には生物が住めないし、コンクリートはボロボロになる。そこで、草津中和工場では、塩基性の石灰石を細かく砕いて川に混ぜている。それゆえ草津の下流でも魚は住めているのである。草津の下流はかつて「死の川」と呼ばれていたのである。また、草津の湯川を中和したおかげで、川の水は農業用水にも使えるようになった。
104.【カイロはなぜ温まるのか】
①鉄粉と②活性炭と③食塩水を用意する。全部、無機物質(炭素の単体は有機物ではなくむしろ無機物であることに注意せよ)である。活性炭は空気を取り込んで鉄粉に酸素を送り続けるための物質である。同じように、冬にコンビニで買えるカイロをもむと暖かくなるのは、外気を取り込むためである。食塩水は鉄が錆びるのを促進する働きがある。鉄と食塩水を混ぜると、鉄粉が酸素と結びつく反応である「酸化」を起こして発熱する。活性炭は酸素を取り込み、食塩水は鉄が錆びるのを助ける。化学カイロの中では、酸素に触れる表面積が大きい鉄粉が急速に錆びていくことで熱を出しているのである。それゆえに、「物体が酸素と結びつくこと」も「酸化」というのである。
105.【酸化と還元は常に同時に起きるし、片方だけで成立しうるようなものではない】
例えば、「2Cu + O₂ → 2CuO」という、銅を燃やして酸化銅(Ⅱ)を作る化学反応も、酸素と結びつく反応だから酸化という。しかし、そうやってできた熱々の酸化銅(Ⅱ)を水素が満たされた試験管の中に入れると銅に戻る。このことは、「CuO + H₂ → Cu + H₂O」という化学式で書く。こうやって物質が酸素を失うことを「還元」と呼んでいるのだ。しかし、「CuO + H₂ → Cu + H₂O」は「酸化」とも言える。水素に着目すれば、水素は酸素を受け取って酸化されて水になっているからである。つまり、酸化と還元は常に同時に起きる。これを酸化還元反応と呼ぶのだ。実際、「2Cu + O₂ → 2CuO」においても、実は還元は起きていたのだ。実は、酸素に着目すると、酸素は酸化銅になる過程で電子を与えられて還元されているのだ。まとめると、「物質が酸素と結びつくこと」が「酸化」で、「物質が酸素を失うこと」が「還元」である。ただし、「物質が酸素と結びつくこと」が「酸化」だと理解していていいのは最初だけで、例えば「2H₂S + O₂ → 2S + 2H₂O」においては硫化水素は酸化されて硫黄になっているが酸素と結びついているわけではない。だから、「物質が酸素と反応すること」を酸化と言った方が正確かもしれない。
106.【空気中に酸素(O₂)がなくても酸化は起こる:二酸化炭素の中に火をつけたマグネシウムを入れると燃える】
「2Mg + CO₂ → 2MgO + C」という化学反応式から分かる通り、マグネシウムは二酸化炭素の中でも燃える。この時、マグネシウムは「酸化」されて酸化マグネシウムになっていて、二酸化炭素は「還元」されて炭素になっている。だとすると、この時、「マグネシウムはなぜ二酸化炭素の中でも燃えてしまうのか」という疑問には答えが出る。マグネシウムは、二酸化炭素から酸素を受け取って、その酸素で酸化されているのである。だから、「空気中に酸素(O₂)がないと酸化は起こらない」と言うのは正しくない。
107.【カイロと酸化防止剤は逆】
カイロは空気中の酸素を取り入れることで暖かくなるのだが、食品の酸化防止剤は食品が空気中の酸素を取り入れないようにしている。例えばお菓子の袋の中には脱酸素剤が入っている。お菓子の袋によく一緒に入っている脱酸素剤の中身は何なのかというと、酸素となるべく結びつきやすい還元剤でなければならないから、実は、「鉄」などである。あと、プラスチックも酸化してしまって強度が低下することがあるので、プラスチック製品の成分にも酸化防止剤が入っていることがある。例えばポリプロピレンだと、酸化防止剤を成分に混ぜておくと寿命が90倍近くになるという。
108.【なぜ草津温泉の湯畑は白いのか:酸化とは水素を失うこと】
温泉水に含まれる硫黄が空気中の酸素と反応して酸化還元反応を起こして沈殿しているから。実際、硫化水素水である温泉水に酸素を吹き込むと、白い沈殿物である硫黄の沈澱ができる。この酸化還元反応を式で書くと「2H₂S + O₂ → 2S + 2H₂O」となる。ここでは酸素のやり取りではない酸化還元反応が起きている。ここでは、硫化水素は酸化されて硫黄になっている。酸素は還元されて水になっている。硫化水素は酸素を受け取っているわけではないのに酸化されている。ここでは「硫化水素が水素を失って硫黄になり、酸素は水素を受け取って水になっている」と言った方がむしろ正確である。だとすると、「酸化とは水素を失うこと」という定義にも一定の説得力があることになる。
109.【ジーンズのインディゴ】
ジーンズのインディゴは、布に染み込ませる段階が①「還元」で、そこから空気に触れさせて染色する段階が②「酸化」である。つまり、「藍染め」は酸化還元反応なのだ。藍は葉っぱで染めたばかりのものは茶色なのだが、空気に触れさせると藍色になるわけである。
110.【鉄を作るのは還元である】
鉄工所では、石炭を蒸し焼きにして作った「コークス」を使って酸化鉄を鉄にする。そのときには「還元」を利用している。
111.【じゃあ結局酸化ってなんなのか:酸化とは電子を奪うことで、還元とは電子を与えること】
例えば、「2Cu + O₂ → 2CuO」をみたら典型的に、①「酸化」とは「物質が酸素を受け取ること」と言いたくなる。逆に、例えば、「CuO + H₂ → Cu + H₂O」を見たら、「物質が酸素を失うこと」を「還元」と呼びたくなる。しかし、② 「2H₂S + O₂ → 2S + 2H₂O」を見たら、「物質が水素を失うこと」を「酸化」、逆に、「物質が水素を受け取ること」を「還元」と呼びたくなる。また、③「物質が燃えること」を「酸化」と呼びたくなる。燃焼とは、発熱と発光をともなう酸化反応だからである。④さらに、「金属が錆びること」を「酸化」と呼びたくなる。しかし、一番汎用性が高い定義は、⑤「酸化される」とは「電子を失う」ということで、「還元される」とは「電子を得る」ということだ、というものである。例えば、銅が空気中の酸素に触れて酸化銅(Ⅱ)になる「2Cu + O₂ → 2CuO」という酸化反応の場合、酸化と還元は常に同時に起こるんだから、還元も起きているはずなのである。そう、酸素が還元されているのである。酸化銅(Ⅱ)はそもそも「イオン結晶」なのである。だから、実は、「2Cu + O₂ → 2Cu²⁺ + 2O²⁻」になっているわけである。銅原子がそれぞれ2個ずつ電子を失ってイオンになり、酸素原子がそれぞれ2個ずつ電子を受け取ってイオンになっているのである。酸素は電子を受け取っているのだから、酸素が還元されているのである。他にも例をみてみよう。「硫化水素水」とヨウ素をヨウ化カリウム水溶液に溶かして作る褐色の「ヨウ素溶液」とを混ぜると硫黄が沈澱する。これを化学反応式で書くと、「H₂S + I₂ → S + 2HI」となる。硫化水素が水素を失う、つまり酸化されて硫黄になり、ヨウ素が水素を受け取り、つまり還元されてヨウ化水素になっている、と言いたくなる。しかし、そもそも左辺の硫黄の隠イオンは電子を2つ失って、右辺で硫黄になり、左辺のヨウ素原子は電子を2つ得て、右辺で陰イオンになっていると言えるのだ。だから、硫黄は電子を失っているんだから酸化されていて、ヨウ素は電子を得ているんだから還元されていると言えるのである。
112.【酸素を受け取ったり水素を失ったり電子を失ったりするのが「酸化」で、酸素を失ったり水素を受け取ったり電子を受け取ったりするのが「還元」】
気体の塩素が入った瓶の中に水を入れて、その中に熱した銅を入れると銅と塩素が反応して青い液体、つまり塩化銅(Ⅱ)の水溶液ができる。これは「Cu + Cl₂ → CuCl₂」という化学反応式になる。この化学反応式の中には酸素も水素もないが、それでも電子のやり取りはあるから、「酸化」とか「還元」を言うことができるわけだ。銅は2個の電子を失って酸化されて陽イオンになっており、塩素はそれぞれ1個ずつ電子を受け取って隠イオンになって還元されているわけである。要するに、酸化や還元を言うために酸素も水素も不要なのである。
113.【酸化数の調べかたの4つのルール:酸化数が増えたら酸化されていて減ったら還元されている】
①単体中の原子の酸化数は0とする。②単原子イオンの酸化数は電荷と等しいとする。例えば、「Cu²⁺」の場合、銅原子の酸化数は「+2」となる。③化合物中の水素原子の酸化数は「+1」とし、化合物中の酸素原子の酸化数は「−2」とし、化合物中の原子の酸化数の総和は常に0とする。例えば、アンモニアNH₃の窒素原子の酸化数は「−3」となる。④多原子イオン中の原子の酸化数の総和はそのイオンの電荷に等しい。例えば硫酸イオンは「SO₄²⁻」の硫黄原子の酸化数は「+6」となる。例えば、「2Cu + O₂ → 2CuO」という化学反応式の場合、左辺の酸化数は銅も酸素も単体だからどちらもゼロになる。右辺の酸化数は、銅原子の酸化数は「+2」で酸素原子の酸化数は「−2」となる。酸化されたものは酸化数が増えて、還元されたものは酸化数が減るのである。酸化数とはいつも原子の酸化数でなければならないことに注意。
114.【酸化還元反応なのに電子のやり取りがわかりづらいもの】
例えば、「2H₂S + O₂ → 2S + 2H₂O」は、電子のやり取りがわかりづらい。硫化水素の隠イオンがそれぞれ2個ずつ電子を失っているので、硫化水素は酸化されて硫黄になったと言える。しかし、酸素の方は反応後、水になっており、そのとき酸素は硫化水素から4個の電子を受け取っているかというと、よくわからない。というのも、水は「H₂O ⇄ H⁺ + OH⁻」というように電離するので、Oが本当にそれぞれ2個ずつの電子を受け取っているのか若干分かりづらいからである。そこで、酸化数を考えれば問題がないことがわかる。硫黄の原子の酸化数は左辺で「−2」であったが、右辺では単体なので「0」になっている。酸化数が増えたから硫黄は酸化されている。それに対して酸素原子の酸化数は左辺では単体なので「0」で、右辺では「−2」になっている。それゆえ、酸化数が減ったので酸素は還元されていると分かる。
115.【酸化還元反応の利用:なぜお茶には還元剤のビタミンCが入っているのか】
反応する相手を還元するのが還元剤である。ビタミンC自体が酸化される還元剤となることでお茶は酸化されないようになっているのだ。
116.【鏡はブドウ糖を還元剤にして作る】
鏡はブドウ糖(グルコース)を還元剤とすることで作る。アンモニア水を加えた硝酸銀水溶液を試験管に入れてまず用意する。そしてそこに還元剤であるブドウ糖(グルコース)を入れる。これをお湯で温めると、試験管が鏡のようになるのが分かるだろう。これは、硝酸銀水溶液に含まれていた銀イオンがグルコースで還元されることで金属の銀が析出することであり、これを銀鏡反応という。この原理で鏡は作られているのである。つまり、ガラスの裏面に金属の銀を析出させることで鏡は作られているのである。
117.【酸化剤のオゾンは浄水場で使う】
浄水場では水に酸化剤のオゾンを吹き込んで水中の不純物を酸化させることで浄水をおこなっている。
118.【酸化剤と還元剤】
反応する相手を酸化するのが酸化剤である。反応する相手を還元するのが還元剤である。そして酸化剤自体は還元されて、還元剤自体は酸化される。酸化剤は還元されつつ相手を酸化する物質で、還元剤は酸化されつつ相手を還元する物質である。これを覚えておこう。銅を熱して空気中で酸化銅(Ⅱ)を作り、その熱した酸化銅(Ⅱ)を、一酸化炭素の中に入れると二酸化炭素が発生して銅に戻る。これを化学反応式で書くと「CuO + CO → Cu + CO₂」となる。酸化銅(Ⅱ)は還元されて銅に戻り、一酸化炭素は酸化されて二酸化炭素になったのである。このとき、酸化剤が酸化銅(Ⅱ)であり、還元剤が一酸化炭素である。酸化剤は相手を酸化し自身は還元されるのだから電子を奪うものなのであり、還元剤は相手を還元し自身は酸化されるのだから電子を放出するものなのである。
119.【酸化剤の典型】
①過酸化水素H₂O₂と②過マンガン酸カリウムKMnO₄と③二酸化硫黄SO₂と④濃硝酸HNO₃は代表的な酸化剤である。
120.【還元剤の典型】
① 過酸化水素H₂O₂と②硫化水素H₂Sと③二酸化硫黄SO₂と④ヨウ化カリウムKIは代表的な還元剤である。
121.【酸化剤と還元剤の「電子に注目した反応式」の書き方の4ステップ】
①まず反応物を左辺に書き込んで、右辺に生成物を書き込んでおく。②両辺の酸素原子の数は「H₂O」を書き込んで合わせる。③両辺の水素原子の数は水素イオン「H⁺」を書き込んで合わせる。④両辺の電荷を電子「e⁻」を書き込んで合わせる。
122.【硫化水素の気体と二酸化硫黄の気体を混ぜると固体の硫黄ができる】
酸化剤と還元剤を、電子に注目した反応式で書き直してみるための実験として、「硫化水素の気体と二酸化硫黄の気体を混ぜると固体の硫黄ができる」という⓪「SO₂ + 2H₂S → 3S + 2H₂O」という化学反応を考えてみよう。電子に注目すると、酸化剤の二酸化硫黄では①「SO₂ + 4H⁺ + 4e⁻ → S + 2H₂O」となり、還元剤の硫化水素では②「H₂S → S + 2H⁺ + 2e⁻」となる。そして、酸化剤の「電子に注目した反応式」と還元剤の「電子に注目した反応式」を足し合わせることで化学反応式を作ることができる。ただし今回の場合は還元剤の②「H₂S → S + 2H⁺ + 2e⁻」は両辺を2倍して③「2H₂S → 2S + 4H⁺ + 4e⁻」となる。それで、①と③を足すと⓪「SO₂ + 2H₂S → 3S + 2H₂O」が出てくるのだ。つまり、⓪は酸化剤の式と還元剤の式からできていたことがわかる。
123.【なぜ過酸化水素と二酸化硫黄は酸化剤でも還元剤でもあるのか】
一般的には酸化剤として働く物質が、非常に強い酸化剤との反応では還元剤になることがあるからである。例えば、①硫酸を加えて酸性(=硫酸酸性)にしておいた過酸化水素水をヨウ化カリウム水溶液に混ぜると、褐色に濁って、ヨウ素が生成する。その証拠に、この褐色の溶液をデンプン水溶液に混ぜると青く変色するからである。②しかし、硫酸酸性にあらかじめしておいた強い酸化剤である過マンガン酸カリウム水溶液に過酸化水素水を混ぜると、小さな泡が沢山発生して、脱色も起きて、酸素ができる。このとき、①の実験では、過酸化水素を見ると、「H₂O₂ + 2H⁺ + 2e⁻ → 2H₂O」となっており、電子を奪っているから、酸化剤として機能している。しかし、②の実験では、過酸化水素を見ると、「H₂O₂ → 2H⁺ + O₂ + 2e⁻」となって、電子を放出しているから、還元剤として機能しているのである。このように反応する相手によって日和見的に、同じ物質が還元剤になったり酸化剤になったりするのだ。
124.【化学において覚えにくいことたち】
①酸素は酸のもとのことではない。「塩酸」には酸素が入っていないのに酸であるし、酸素が入っている水酸化物は酸ではなく塩基である。二酸化炭素が水に溶けて炭酸になる。②酸化は物質と酸素との結合とは限らない。水素を失うことだとも言える。③炭素は有機物ではない。④炭素棒を使うのは腐食を避けるため。⑤食塩水が電気を通すのは一時的である。次亜塩素酸ナトリウム水溶液になっていくから永遠に電気を通すとは言えない。陽イオン交換膜を使えば水酸化ナトリウムがつくれるけれど、普通にやったら食塩水は次亜塩素酸ナトリウム溶液となっていく。⑥「Cl⁻」は呼び方が「塩素イオン」ではなく「塩化物イオン」なので注意が必要。「O²⁻」は「酸素イオン」「酸化物イオン」である。
125.【銅は濃硝酸に溶ける】
濃硝酸のなかに銅を入れると、溶液がものすごい緑色になりしかもしばらくすると褐色の気体である二酸化窒素(NO₂)の泡が出始める。
126.【イオン化傾向:金属はほとんど還元剤】
「リチウム(Li)→カリウム(K)→カルシウム(Ca)→ナトリウム(Na)→マグネシウム(Mg)→アルミニウム(Al)→亜鉛(Zn)→鉄(Fe)→ニッケル(Ni)→スズ(Sn)→鉛(Pb)→水素分子(H₂)→銅(Cu)→ 水銀(Hg)→銀(Ag)→プラチナ(Pt)→金(Au)」の順番にイオン化傾向は小さくなっていくことは覚えておこう。これを「イオン化列」という。多くの金属は酸素を受け取りやすいので還元剤である。鉄は酸化されやすい金属である。つまり鉄は電子を失いやすい金属である(ただし油を塗っておくと金属は錆びにくくなる)。リチウムやナトリウムやカリウムは柔らかく非常に錆びやすい。リチウムやナトリウムやカリウムは価電子が1個でイオン化傾向が非常に大きいのである。イオン化傾向とは金属が水溶液中で陽イオンになろうとする性質のことである。イオン化傾向が大きいとは酸化されやすいという意味で、イオン化傾向が小さいとは酸化されにくいという意味である。例えば、銅や水銀や銀やプラチナや金は酸化されにくい。3000年以上前に作られたツタンカーメンのマスクはいまだに錆びていない。鉄よりも錆びにくい金属としては「スズ」や「鉛(なまりと呼んで元素記号だと「Pb」)」がある。カルシウムは水に入れると即座に水素を出して溶けていく。イオン化傾向がとても大きい金属がカルシウムなのである。カルシウムに対して、マグネシウムは水に入れても、全く反応しない。カルシウムの方が、マグネシウムよりもイオン化傾向が大きいのである。マグネシウムは、熱水だと水素を出して反応するが、亜鉛は熱水でも反応しない。アルミニウムと亜鉛と鉄は高温の水蒸気を当てると反応する。アルミニウムと亜鉛は塩酸と反応して水素を出すが、銅は塩酸に入れても無反応である。「濃硝酸」のなかに銅を入れると、溶液がものすごい緑色になりしかもしばらくすると褐色の気体である二酸化窒素(NO₂)の泡が出始めるし、水銀や銀も「塩酸」には反応しないが、「熱濃硫酸」という酸化力の強い酸とは反応する。金は銅が溶けてしまう「濃硝酸」でさえ溶かせない。しかし、「濃硝酸」と「濃塩酸」とを体積比1対3の割合で混合した「王水」という黄色の液体である。これがあれば、金でさえ溶かすことができる。
127.【イオン化傾向(=陽イオンになりやすさ)が大きい方が優先的にイオンになることが分かる実験】
まず①青色に発色している硫酸銅(Ⅱ)水溶液と②硫酸亜鉛水溶液と③硝酸銀水溶液を用意する。①硫酸銅(Ⅱ)水溶液に亜鉛板を入れると入れたところが変色する。それに対して、②硫酸亜鉛水溶液に銅板を入れてみても、なんの変化もない。そこで、銅板を③ 硝酸銀水溶液に入れてみる。すると、銅板が変色していき銅板の表面に銀が付着してくる。これはなぜだろうか。①においては、銅原子よりも陽イオンになりやすい亜鉛原子は酸化してしまって、電子を失い亜鉛イオンになって溶け出していく。そして溶け出していた銅イオンが電子を受け取って析出してくるからなのだ。つまり、水溶液中の銅イオンが還元されて析出されるわけである。②においては、亜鉛の方が銅よりイオン化傾向が大きいんだから何も起こらないのである。③においては、銅の方が銀よりイオン化傾向が大きいので、銀が溶けてイオンになっているのに銅がイオンになっていないのは自然界の序列的におかしいだろ、ということで、銅が代わりに溶けて銀が析出するのである。他にも例がある。④塩化スズ(Ⅱ)水溶液に亜鉛を入れてみよう。すると、亜鉛の方がスズよりもイオン化傾向が大きいのにスズが溶けてイオンになっているのはおかしい、ということでスズが析出してくるのである。しかも樹木の枝が伸びるようにスズが生えてくる。これを「スズ樹」という。このようにして様々な「金属樹」を作ることができる。
128.【金属樹】
① 塩化スズ(Ⅱ)水溶液に亜鉛を入れてみよう。スズ樹が作れる。②酢酸鉛(Ⅱ)水溶液に亜鉛を入れてみよう。鉛樹が作れる。③ 硫酸銅(Ⅱ)水溶液に鉄を入れてみよう。銅樹が作れる。④ 硝酸銀水溶液に銅を入れてみよう。銀樹が作れる。要するに金属樹は、「イオン化傾向の相対的に小さい金属イオンの水溶液中に、イオン化傾向の相対的に大きい金属の単体を入れると、イオン化傾向の相対的に小さい金属が、大きい金属の表面に析出すること」を原理としているのだ。
129.【酸化還元反応と金属のイオン化傾向が分かれば電池が作れる:ダニエル電池】
電池とは金属同士の酸化還元反応の中で生じた電子を電気エネルギーとして取り出す装置のことである。①亜鉛板と②銅板と③ 硫酸亜鉛水溶液ZnSO₄と④硫酸銅(Ⅱ)水溶液CuSO₄があれば「ダニエル電池」が作れる。まず、セロハンの袋に入った硫酸銅(Ⅱ)水溶液をビーカーに入れた硫酸亜鉛水溶液に入れる。次に、亜鉛板をビーカーの中の硫酸亜鉛水溶液に漬けて、他方で銅板をセロハンの中の硫酸銅(Ⅱ)水溶液に漬けて、それらに回路をつなぐ。するとプロペラが回るのである。ここでは何が起きているのだろうか。まずイオン化傾向が大きい方の亜鉛板が溶け出して、電子を失う(そうやって溶け出した亜鉛イオンはセロハンを通ってセロハン内部へと侵入する)。だから亜鉛の方が電子が飛び出す方だから電池の負極になる。その電子は導線内を伝わってプロペラを回してから、セロハン内にある硫酸銅(Ⅱ)水溶液の中の銅板の方へ行く。銅板は電子が入ってくる方だから電池の正極ということになる。正極では水溶液中の銅(Ⅱ)イオン(Cu²⁺)が電子を受け取って還元されて銅になって析出する(残された硫酸イオンはセロハンの穴を通って負極側へと出ていく)。ではなぜダニエル電池にはセロハンという仕切りが必要なのだろうか。セロハンの小さな穴を通って、ビーカーの中の亜鉛イオン(Zn²⁺)がセロハンの中に侵入し、セロハンの中の硫酸イオン(SO₄²⁻)がセロハンを通ってビーカーの中に飛び出していくのである。これは電子の動きということでみると、電子を失っていく負極に対して、それ自体が電子を持った硫酸イオン(SO₄²⁻)が正極から負極へとどんどん移動していくのだから、しばらくは電子の供給が途絶えることはないし、回路全体に電流が流れたことになるというわけなのだ。どんどん電子を失っていく負極ではどんどん増えていく電子の負債をすぐさま隣に渡せるのだから電子が入ってきているのと一緒だし、どんどん電子が入ってくる正極からは電子を持った硫酸イオンがどんどん出ていくのだから電子を排出しているのと同じというわけである。このようなイオンの移動をもって電子が流れているとみなせるのだし、このようなイオンの移動を可能にしているものこそセロハンだというわけである。このダニエル電池だと亜鉛板がどんどんボロボロになって、銅板はどんどん大きくなっていくことなる。電池からこのように電子の流れを取り出すことを放電という。充電できる電池が二次電池で、充電できない電池が一次電池である。
鉛蓄電池は、1859年にフランスのガストン・ブランテが発明した世界初の二次電池である。ガソリン自動車のバッテリーに使われてきた電池は「鉛蓄電池」である。鉛蓄電池は、仕組みがシンプルだし材料の鉛が安いため、非常に長いこと自動車で使われてきた。「鉛Pb」と「酸化鉛(Ⅳ)PbO₂が表面に付着している棒」を電極にして、それを「希硫酸H₂SO₄」の中に入れれば、鉛蓄電池が作れる。鉛蓄電池は充電と放電を繰り返すことができる。負極が「鉛Pb」で、正極が「酸化鉛(Ⅳ)PbO₂が表面に付着している棒」である。負極からはどんどん電子が出てくるわけだが、それは鉛の酸化数が「+2」に変わって、鉛が溶け出して酸化されるからで、その電子が導線を伝わっていくのである。その電子がプロペラを回した後で正極にいくことになる。それで、溶け出した鉛イオンはどうなるかというと、溶液中の硫酸イオン(SO₄²⁻)と結合して「硫酸鉛(Ⅱ)PbSO₄」になって、負極に付着しているわけだ。正極では、PbO₂の原子の酸化数の総和は「0」でなければならなかった(酸化数のルールより)わけだから、酸素が2つあるので、PbO₂のPbの酸化数は「+4」ということになる。このPbは、送られてきた電子を2つ受け取って、「鉛(Ⅱ)イオンPb²⁻」となる。で、これが溶液中の硫酸イオン(SO₄²⁻)と結合して「硫酸鉛(Ⅱ)PbSO₄」となって正極に付着するのである。整理すると、負極では鉛原子の酸化数「0 → +2」の酸化反応が起きていて、正極側では鉛原子の酸化数「+4 → +2」の還元反応が起きていることになる。これが鉛蓄電池の「放電」の原理である。そして、正極でも負極でも、どんどん硫酸鉛(Ⅱ)PbSO₄が表面に付着していくことになる。ただし、この放電ではどんどん水が溜まっていって、希硫酸の濃度が薄くなって反応が進まなくなる。だから、外部電源によって電流の向きを「放電」の時とは逆向きに流して、硫酸鉛(Ⅱ)PbSO₄を、再び酸化鉛(Ⅳ)PbO₂と鉛Pbに戻してやればいいのだ。そうすると希硫酸の濃度が再び高まる。つまり、負極側では、硫酸鉛(Ⅱ)が還元されて鉛になり、正極側では硫酸鉛(Ⅱ)が酸化されて酸化鉛になるのである。だから、こうした「充電」の時には、外部電源の力によって、正極から負極へと電子が流れていることになる。これが充電の原理である。
131.【負極と正極のペアと陰極と陽極のペアとを混同してはならない】
電池あるいは電源の負極に繋いだ電極が陰極で、電池あるいは電源の正極に繋いだ電極が陽極である。陰極からは電子が出てきて、陽極には電子が流入していくことになる。このあたりの紛らわしい用語法を混同してはならない。
電池をつくるとは「別の物質から電気エネルギーを取り出す操作(別々の物質→電気エネルギーが出る→物質)」のことであるが、「物質に電気エネルギーを与えることで別々の物質を作り出す操作(物質→電気エネルギーが入る→別々の物質)」のことを「電気分解」と呼ぶ。純水は電気を通さないのであらかじめわずかな希硫酸を入れておけば水を電気分解することができる。このような水の電気分解では、陰極からは水素H₂の泡が出てきて、陽極からはO₂の泡が出てくる。陽極には水分子H₂Oがふたつ集まってきて、その水分子ふたつが酸化されてしまって、酸素O₂が出てくるわけである。水素イオンはその時4つ余るので、それらは陰極の方へと動いていく。陰極ではそれらの水素イオンが電子を受け取って還元されるのだ。そして水素H₂の泡として出てくるわけである。陽極では酸化反応「2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻」が起きて、陰極では還元反応「2H⁺ + 2e⁻ → H₂」が起きているというのが「水の電気分解」である。このように、「水や水溶液に外部から電気エネルギーを与えて強制的に酸化還元反応を起こさせること」を「電気分解」という。
133.【酸化還元反応で重要なことはエネルギー】
酸化還元反応が起きる時には、必ず同時に、エネルギーの変化が起きるということが重要である。カイロが温かくなるのは鉄粉が錆びる(=酸化される)時に出す熱エネルギーを利用している。しかし、これは穏やかな酸化還元反応であるが、条件を少し変えれば鉄の錆びるスピードをもっと速めることができるのだ。例えば、シュウ酸鉄(Ⅱ)二水和物という黄色い粉がある。シュウ酸鉄(Ⅱ)二水和物は鉄を含んだ化合物である。これを試験管に入れてガスバーナーで加熱するとだんだん黒くなっていく。この粒を空中に落とすと、空気に触れた瞬間に発火する。カイロよりもはるかに速いスピードで熱を出すのである。逆に言うと、カイロは鉄の粒の大きさを大きくすることでこういう事態にならないように、つまり程よいスピードで酸化が進むようにしているわけだ。
吉野彰はリチウムイオン電池を開発した化学者である。負極にはリチウムイオンを含んだ炭素を用いて、正極にはリチウムイオンを含んだ金属酸化物を用いる。それを、イオンが通過できるセパレーターで区切った電解液の中に漬けるのがリチウムイオン電池である。リチウムはイオン化傾向が大きいし、炭素に含まれたリチウムイオンは金属に含まれている場合よりもさらにイオン化傾向が大きい。しかもリチウムは金属の単体の中でも一番軽いのである。だから、リチウムイオン電池が軽量かつ高性能なのである。スマホにも電動歯ブラシにもリチウムイオン電池が使われている。太陽光発電や風力発電などの天候に左右されやすいということが欠点の再生可能エネルギー(自然エネルギー)の活用という文脈においても、リチウムイオン電池を使えば、天候が好都合な日にその電力を蓄えておくことで電力の安定供給が可能になるかもしれないといわれている。
135.【製錬】
鉱石から金属を取り出すことを「製錬」という。金属は普通自然界に単体で存在していたりしない。だから、例えば銅は、クジャク石からの製錬によって取り出したりするのだ。「るつぼ」にクジャク石と活性炭を入れていく。それを「マッフル」に入れてバーナーで熱するのだ。これによりクジャク石に含まれる銅の酸化物が活性炭に酸素を奪われたことで還元されて銅になるのだ。つまり活性炭は還元剤だったというわけである。クジャク石と同じく、銅の酸化物である酸化銅(Ⅱ)から銅を取り出すならば、活性炭ではなく、スクロースという砂糖でも同じことができる。スクロースと酸化銅(Ⅱ)をよく混ぜてガスバーナーで加熱すると銅を製錬できるのである。スクロースも活性炭と同じく炭素を含んでいるから還元剤として働けるというわけだ。しかし、これはあくまでも「製錬」であって「精錬」ではない。つまり「製錬」では大した純度の銅は取り出せないのである。
136.【電解精錬】
熱で製錬しても純度には限界があるので、電気分解で純度を高めることができる。これが電解精錬である。こちらは「製錬」ではなくて「精錬」であることに注意しよう。まず、純度が99%くらいの「粗銅(そどう)」というものをまず熱製錬で作り、ここからさらに、電気分解で亜鉛や鉄などの不純物を取り除くのが、「精錬」である。こうして99.99%くらいの純度の銅板を作ることができる。銅以外にも、ボーキサイトからの大量の電気を使った電気分解で作るのがアルミニウムである。オイルショック以降、日本はアルミニウムの自国での生産をほぼ諦めてオーストラリアなどから輸入することにしている。
137.【サランラップはなぜ食器にくっつくのか】
サランラップが食器にくっつくのは、分子間力があるからである。メントールは、室温では固体だが熱するとすぐさま昇華する。ドライアイスは室温で熱しなくても昇華する。では、メントールとドライアイスは何が違うのか。分子の極性が異なるのである。メントールは分子に極性があるから分子間力が大きいが、ドライアイスは分子に極性がないから分子間力が小さいのである。メントールもドライアイスも「分子結晶」ではあるが、極性分子か無極性分子かが異なるのである。この分子間力がサランラップと食器の間に働いている。ラップは表面に凹凸がないせいで食器に限りなく近づくことができて、それゆえに分子間力が働くのである。またラップと食器の間の空気が追い出されるがゆえに、内側からも大気圧で押される、ということができなくなり、大気圧の釣り合いがなくなって外側からより強く押されるから、より密着するのである。ちなみに、ラップの原材料には、「ポリ塩化ビニリデン製」のものと「ポリエチレン製」のものがあるが、ポリエチレン製の方は分子の密度が低いのでそれほど食器にくっつかない。しかし密度が低いとは空気を通しやすいということだから野菜の保存にはむしろこのポリエチレンが適していたりもする。
138.【塩漬け】
魚を塩漬けにするのは、食品中の塩分濃度が高いことが、細菌の繁殖を防げるからである。ハムなどはさらに、塩漬けにするだけでなくて燻製の煙に含まれる成分で殺菌している。
139.【フリーズドライ】
「水分を含んだ食品を凍らせてから、さらにそこからそのまま真空状態にして水分を昇華させてしまう」、という技法が「フリーズドライ」である。こうすればお湯を注ぐだけで元に戻せるし、細菌が繁殖するための水分をなくすことができる。
140.【油揚げは「ガス置換包装」】
大気中に約20%含まれている酸素が食品を酸化して味を劣化させてしまうので、酸素が入らないように、あらかじめ別の気体、例えば二酸化炭素や窒素などで食品の袋の中を満たしておくというのが、「ガス置換包装」である。油揚げでは、この包装技術の効果が高く保存期間を1週間以上伸ばせるという。なぜ油揚げでは置き換えるガスに二酸化炭素を使うかというと、油揚げには水が多いので、その水の中での微生物の繁殖を抑える効果が、二酸化炭素にはあるからである。ポテトチップスはそもそも油が多いので、その油の酸化を抑えるためにはむしろ窒素で置き換えるのがいいという。